Book
□フォーチュンクッキー
1ページ/1ページ
星座、誕生日、干支、それに血液型。
世の中には様々な種類の「占い」が存在する。
ジオールにおける「おみくじ」も、占いの類だろう。
国や地域によって少しずつ違ってはいるものの、そのすべてに共通するのは、「これから過ごす日々に何か道標が欲しい」という想いだ。
咲森学園の調理室。
ここにもまた、道標を求める者たちが集まっていた。
「…これは何だ?」
エルエルフは、目の前に置かれた皿に入ったお菓子を怪訝そうに見た。
そのお菓子はハート形の立体的なクッキーだった。
甘いものがあると誘われ、ハルトと共についてきたはいいものの、見慣れないそれに一人首をかしげる。
「これはね、フォーチュンクッキーっていって、中に運勢が書いた紙が入ってるんだよ」
「占いの類か?」
「まあ、そうなるかな」
集まったメンバーがクッキーに手を伸ばして食べ始め、割ったクッキーから出てきた紙を見せ合って騒いでいる。
エルエルフに一通りお菓子の説明をして、ハルトもクッキーを1つ手に取った。
パキッと2つに割り、入っていた紙を引っ張り出す。
「ほら、こんな感じ」
それを見て、エルエルフもクッキーを割ってみる。
手つきが恐る恐るとしていて、なんだかかわいいなあとハルトは笑って、紙に目を落とした。
「えーと、『今日はあまりついてないかも!怪我に十分気を付けて』、か。なんか僕ってこんなのばっかだなあ…。
エルエルフはなんて書いてあった?」
あまり嬉しくない内容にため息を一つつき、エルエルフの方を見れば、なぜか紙をクシャっと隠してしまった。
どうしたの? と問うハルトに返事をしようと口を開いて、また閉じた。
ますます不思議そうにするハルトを見、少し考え込んで、また口を開いた。
「秘密、だ」
「っ!!」
その瞬間、ハルトは顔を真っ赤にして、手で顔を覆ってしまった。
今度はエルエルフがどうした?と問う番だった。
よく聞きとれないが、「君って人は…」やら「反則…」といったような声が手の隙間から聞こえてくる。
幸いその場が騒がしかったおかげで、ハルトの様子を怪訝に思う者はいなかったが、このまま放置されるのはなんだか居心地が悪い。
いい加減顔を上げろ、と伸ばした手を、落ち着いてきたらしいハルトに机の下で握りこまれる。
上げた顔は相変わらず真っ赤で、どういうわけかエルエルフの方を見ようとしない。
エルエルフにもわけがわからず、とりあえず「ハルト?」と呼んでみる。
目を覆って、次に口元を覆って、そのままハルトは絞り出すように言った。
「エ、エルエルフ…頼むから、僕以外の前であんな顔しないでよ…」
一瞬「え?」となったものの、すぐに意味を理解したのはさすがというべきだろう。
「お前次第だ」
そう言って、手を握り返す。
相変わらず目を合わせてくれないハルトは、「絶対だめだからね…」とぼやいている。
そんなハルトの様子にエルエルフの機嫌は向上していく。
『たまには信じてみるものだな』
エルエルフはポケットに隠した紙にそっと触れた。
『ツキを呼ぶには笑顔を見せる事』
end
.