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□君の「声」
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 気に入ったらしい羊羹をお土産に、部屋に帰った。

僕が入れたお茶と一緒に、エルエルフは黙々と食べている。
ほんの一瞬、細められた目。
『あ、喜んでる』
そんな様子を見て、僕は幸せな気持ちになる。

ピピピッ

まったり話しながらのおやつタイムだったが、突然僕の携帯が鳴った。
相手はショーコ。
ちょっと手伝いに来てほしいという申し出に、返事をして部屋を出ようとした。
でも体は前に進まず、元いた場所に引き戻された。
振り返ると、さっきまで話していたエルエルフが、僕の袖を無言で掴んでいる。
どうやら無意識だったみたいで、はっとした顔が赤く染まり、慌てて袖を離した。

『行かないで』

そう言われた気がして、なんだか嬉しくなる。
ショーコには今手が離せないと言って、携帯を切った。
微笑みながら

「どこにも行かないから」

って言ったら、びっくりした顔してる。

「…よかった、のか?」

少し遠慮がちにそう聞いてきたから、

「だって、行ってほしくなかったんでしょ?」

って返したら、またびっくりした顔して。

「そんなわけないだろう」とそっぽを向いてしまった。

『あ、照れてる』

それがわかって、僕はベットに座るエルエルフの隣に座った。
手を握って、もう一方の手で引き寄せながら頭を撫でる。
そしたらそっと手を握り返してきて、撫でる手にすり寄ってくる。

『甘えてくれてる』

そうしてまた僕は嬉しくなる。
体を少し離して、「いい?」って囁いた。
なにが、なんて質問は無い。
もう何回もしていることだから、言わなくたって通じる。
エルエルフは少しうつむいて、そっと胸に顔をうずめてきた。
キュッ、と僕の服を掴みながら。
照れと、喜びと、恥じらいと、それから期待。
そんな感情が入り交っているのを感じる。

みんなは「よくエルエルフの言いたいことがわかるよな」、なんて言うけれど、逆になんでわからないんだろう?
それだけ僕がエルエルフと長く一緒にいて、よく彼を見ているということなのかもしれない。


僕にはエルエルフの一つ一つの仕草が、まるで彼の「声」のように思える。
それを感じ取れるのが僕だけということに、少し優越感を感じる。

あまり多くを語らない、愛しい愛しい、君の『声』…。




end
 

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