せいんと学園高等部

□せいんと学園高等部
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立花に連れられてやってきたのはボーリングだ。
体を動かせるのはもちろんなのだが彼女自身ボーリングが好きらしく、いつになくはしゃいでいる。
そんな彼女の元気な様子に思わず笑みがこぼれた。

「カミュはボーリング得意?」
「いや、あまりやったことはない。」
「そっかー。かくいう私も得意ではないんだよね。好きだけど。」

なぜか彼女の"好き"という言葉に反応してしまう。
べつに誰かを差して言っているわけではなく、ボーリングのことを言っているのは分かってはいる。
頭ではそう分かっていても体が反応してしまうようだ。

受付に向かった彼女はよくここにくるようで受付にいる女性スタッフと顔見知りのようだった。
話し込む彼女の様子から長くなりそうだ、と私とミロは近くのベンチに座った。

「そういやあいつ、後夜祭サガと踊ったんだってな。」

つぶやくミロの視線の先には楽しそうに笑う立花の姿がある。
私だけでなく、どうやらミロもそのことを気にしていたらしい。
彼女は後夜祭のダンスに何人かに誘われていた。
しかもそのほとんどが私たちの仲間なのだから驚きだ。
その場にいたミロやデスマスクたちの一斉の誘いは逃げてまで断ったのに、サガの誘いは簡単に受けたのだろうか。
そんな疑問が浮かんでは消えて行く。
もし、後夜祭のジンクスが本物でこのままサガと立花が恋人の関係になるのなら友人として祝ってあげるべきなのだろう。
考える度に答えはそこに行き着くのに、素直に祝ってやることができそうもなかった。
でもなぜなのか、その答えにだけはいまだたどり着けていない。

「あいつ、サガのこと好きなのかな。」
「…さぁな。」
「お前なんかこの話になるとノリ悪いよなぁ。あいつがサガとくっついてもいいのかよ?」

不満げに話すミロの声には少し怒気が混じっている。
隣に座っているこの友人は頭こそ悪いが、バカではない。
日頃の話からしてミロが立花のことを気にしているのは口にしていなくてもわかる。
きっと本人も自覚しているのだろう。
ではなぜその質問をミロが私に投げかけるのか。
私は彼女を友人だと思っているし、それ以上の存在だとは思っていない。
しかし、ミロの質問への私の解答はノーとしか言えない。
サガと立花が恋人同士になったとして、心から祝ってやれないというのは2人がそうなってほしくないと思うからだろう。

「カミュ…。まさかお前も…。」
「…ミロ。私はわからないんだ。彼女のことをどうおもっているのか、このもやもやした気持ちがなんなのか。」

それが私の答え。
なんとなく情けなくなってうつむくと、しばらくして肩にポンと手がおかれる。
それが隣に座っている親友のものであることに気づくのにそう時間はかからなかった。

「お前は真面目すぎるんだよ。いいじゃねえか、答えが出るまでゆっくり考えようぜ。」

もちろん一緒にな、と最後に付け加えて紺色の髪の親友はウインクをした。
時々、彼の無邪気な笑顔には眩しさすら感じる。
それに私は助けられているし、力をもらっている。
ミロのおかげで自分の中の不安が軽くなったのか、自然と笑うことができた。

「ごめーん!お待たせ!」
「ほんとだぜ。ほら、はやく行くぞー。」
「えっちょっと待ちなさいよ!」

立ち上がると無邪気に笑いながらレーンに向かうミロと慌てて追いかける立花の後を私も追う。
何も今答えを出す必要はない。
まだ何かが進展しているわけではないのだ。
ミロの言葉を心の中でもう一度繰り返し、清々しい気持ちになれた。
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