せいんと学園高等部

□せいんと学園高等部
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グラウンドにつくともうすでに人でいっぱいだった。
中央にはキャンプファイヤー用に櫓が組んである。
中には学園祭で使った木材が詰めてある。
そろそろ始まるのか、生徒会役員らしき人物が櫓のそばにスタンバイしているのが見える。

「じゃあ、俺らはあっち行くから。まぁ頑張れよ立花
。」
「はーい……。」

先生たちは打ち合わせがあるらしく、テントのほうに向かって行く。
最後にカルディア先生が私の肩に手を置いて楽しげな笑顔を浮かべて去っていった。

めんどくさい人たちに捕まるのもあれだが、後夜祭なのに一人でいるのもつまらない。
誰か知り合いはいないものか、と櫓から少し離れた場所を歩く。

「やっときたのね、愛。」
「し、親友ー!!」
「ウザイから抱きつくの無し。」
「すんません。」

人の波の中から目の前に現れたのは探し求めていた親友だ。
やっと出会えたことが嬉しくて抱きつこうとしたが、その前に拒否されて地面に正座する。
これは説教フラグか…?

「まぁ、いいわ。せっかくの後夜祭だし。」
「親友よ…!心遣い感謝する!」
「わかったからふざけんのやめなさい。」
「あいあいさ!あ、ところでさ、ダンスのことなんだけど…。」

最後まで言葉にしようと思ったのだが、親友の表情の変化に口をつぐんだ。
ダンス、それをきいた途端私から顔をそらした。

「あ、あのさ!ダンスの相手ってもう決まっちゃった?」
「う、うん。申し訳ないけど。」
「そっか……。」

なんとなく親友の反応が気になってしまう。
べつに相手が決まっていることは(本当に残念ではあるが)しょうがない。
しかしいきなり強気な態度から顔をそらしたり、どもったりするのは珍しい。
親友がこの反応をする時は何かあった時か、気がかりなことがある時しかない。

「ねぇ、なんかあった?」
「べ、べつに?てかあんたそうやって言ってるってことはまだ相手決まってないんでしょ?早く探してきなさいよ!」
「う、うん……。」

どうやら私に話すつもりはないらしい。
私では力になれないのか、そう思うとさみしい気もするがこれは親友なりの気の使い方だ。
私にできそうなことがあれば本人のほうから話してくれる。
今は触れないほうがいいのかもしれない。
そう自分で結論づけて親友と別れ、後夜祭の人ごみに紛れた。

しかし相手などどうやって決めればいいのか。
相手が決まっている人のほうが多そうで、すでに2人一組になって座っているカップルがちらほら見える。
この中からめんどくさい人たち以外をどうやって探せというのか。
一応、誰か誘ってくれないかなと思いながらブラブラと歩く。
しかし成果はあまりなかった。
途中カミュの赤い髪が見えて隠れたり、シュラ先輩が見えて逃げたりしたから当然といえば当然だ。
そんなこんなで疲れて櫓から離れた芝生に座る。

もう始まった後夜祭は基本的にはダンスが中心だ。
5曲あるうちの1曲目はすでに始まっている。
2人一組のダンスだから相手がいなければ踊れない。
一度くらいは踊りたいからあと4曲のうちに相手がほしいのだが、この調子だと……どうなるのだろう。
思わずため息がでた。

「ため息なんてついてどうしたんだ?」

後ろからかかった声に振り向くとそこには制服がよれよれになったサガ部長がいた。
多分よれよれなのは女子のアプローチがすごかったからと見た。
それを伝えると苦笑いで返されたから多分正解だ。

「で、なんでため息をついていたんだ?」
「…部長はダンスの相手決まってます?」
「私はまだだが。…もしかして相手がいないから、か?」

そのまま私の隣に部長は腰かけた。
伺うようにしてきく部長にうなづきで返せば彼は笑顔になった。

「なんで笑うんですかぁ……。」
「いや、まさかそんなに真剣だとは思わなくて。」
「せっかくの学園祭なのに楽しめないとか真剣にもなりますよ。」

自分でもむすっとした言い方になっていることに気づく。
思った以上に後夜祭を楽しめないことに自分が苛立っていたようだ。
そんな私の心情を知ってか知らずか、部長は先ほどの笑顔とはうって変わって真剣な顔になった。

「立花、私と踊ってくれないか?」

立ち上がった部長は座っていた私の前までくると跪いた。
そのまま私の手をとってセリフを言うが早いかキスを落とす。
まるでいつものサガ部長ではないようで一瞬何が起きたかわからなかった。

「立花……?」
「へっ?あっ?えっ?」
「少し落ち着くといい。」

これが落ち着いていられる状態か?
サガ部長に声をかけられて我に返った私だが、だからこそ戸惑いが隠せない。
驚きと恥ずかしさとで顔も真っ赤になっているはずだ。
こんな顔見られたくない。

「それで、立花。」
「は、はい!」
「返事のほうをきかせてくれないだろうか?」

そう言った部長の顔も少し赤くて。
恥ずかしいのは私だけではないのだと実感する。
昼間他の人に誘われたのと状況は同じようなものなのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう。
誘ってくれたサガ部長も同じようにドキドキしているのだろうか?
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