せいんと学園高等部
□せいんと学園高等部
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「ついたぞ。失礼します。」
「す、すいません。ありがとうございます。」
結局あのまま保健室まで到着してしまった。
最終的には途中まで生徒には会わずに済んだからまだよかったのかもしれないが、恥ずかしさはずっと消えることはなかった。
保健室の扉を開けると金髪でもの静かな印象のアスミタ先生が椅子に座ってくつろいでいた。
「どうかしたのかね。」
「変な着地をして足をくじいたみたいで。」
「なるほど。これは結構ひどそうだな。」
ふむ、と女性とみまごうような美しいしぐさで私の足を先生は見つめる。
それに私が少しひいていると後ろのほうでガラガラと扉の開く音がした。
振り返るとここまで運んでくれた黒髪の彼が保健室から出ていくところだった。
「あ、あの・・・!ありがとうございました・・・!!」
「気にするな。じゃあな。」
そういってそのまま去っていく。
生徒の通らない時間帯に廊下で会ったのだ。きっと彼も何か用事があったのだろう。
それにも関わらず私をここまで運んでくれるなんて、なんて優しい人なんだ。
しかし私は重要なことにはいつも後になってから気づくのだ。
彼の名前を知らないということに。
「さて、治療を始めるぞ。」
「アスミタ先生?なんか楽しがってません?」
「そんなことはないぞ。」
黒髪の彼が出ていき、私はアスミタ先生へと向き合う。
常時目をつむっているアスミタ先生の感情の変化はわからないことのほうが多いのだが、今回はなんだかすごくよくわかる。
明らかに口元が笑っている。
それになんだかルンルンした動作ではないか。
そんなアスミタ先生の動作を疑問に思いながらも、これから治療を受けることを思い出して少し不安になる。
「患者がきたのは久しぶりだった。立花、よくやったぞ。」
「どういうことですかそれは・・・。」
「治療するのは私の趣味だからな。しかもお前の場合結構重度な捻挫だったからな。荒療治だが、固定もしたし、治りははやいと思うぞ。」
そういったアスミタ先生は普段めったに見せないような満足気な笑顔を浮かべた。
一方の私はアスミタ先生の荒療治という言葉通り、思わず泣き叫ぶほどの激痛をともなう治療に疲れきっていた。
もう2度と怪我なんかしない。
そう心に誓うほどだ。
それに結局楽しんでいるんじゃないか。
アスミタ先生の嘘つき・・・。
心の中で悪態を付きながらも私は治療の終えた足のほうの靴を履いた。
「1週間は無理な運動は禁止だ。またきなさい。」
「・・・ありがとうございました。」
2度ときたくはないです。
と心の中でつぶやいて私は椅子から立ち上がり、保健室から出ようと扉に手をかける。
「失礼する。」
「あ、ごめんなさい。」
手をかけた扉が私の力じゃないのに開く。
それはどうやら外にいた人が開けたようで保健室の入口ではち合わせる
形になってしまった。
「あれ、シャカじゃない。」
「ああ立花か。貴様が保健室にいるなどめずらしいではないか。」
「まぁ・・・ちょっと、ね。」
そういって私は思わずどもる。
そこにいたのはアスミタ先生と容姿がそっくりな同い年のシャカだった。
彼とはクラスは違うが、昼休みはよく一緒に昼寝をする仲だったりする。
しかし、どうやら私をおもちゃと思っているふしもあるように思う。
だからこそあまり足のことはいいたくなかった。
「シャカ。君はまたきたのかね。」
「ここが1番静かなのでね。」
アスミタ先生のおかげで私への興味が薄れたのかシャカは保健室のベッドへと一直線に向かっていった。
私は思わず安堵の息が漏れる。
そういえばシャカのほうこそなぜ放課後に保健室にいるのか。
大食感でいつも寝ているシャカが体調不良など考えられない。
そう思って振り返るとシャカはすでにベッドの上で寝ているようだった。
まぁいいか。シャカだし、心配しなくても。
そんなことを思いながら私はもう一度アスミタ先生にお礼を言ってから保健室を出た。