BL小説

□There is always light behind the clouds.
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今日はホワイトデー。
俺と美咲が付き合ってからだいぶ経つ。
最初ずっと片思いをしていた孝浩の弟だと分かりつつも他人を家にあげるのが嫌いな俺は美咲をあまり良いようには思っていなかった。
だが、段々と美咲の明るくて純粋で真っ直ぐな性格を受け入れる様になった。
孝浩が結婚すると知った時には俺が無理をして笑顔を作っているのに即気づき、外に連れ出して大好きな兄なはずなのに「生まれてはじめて兄チャンの事殴りたいと思った」と怒り自分の事かのように泣いてくれ
た。
最初泣いたのには驚いたけれど、すぐにこう思った。
人の痛みや苦しみが分かる優しい奴なんだって。
俺は昔から感情を殺して生きてきた。
だけど、こいつは違って自分の感情に素直でいられるからこそ、人の感情をくみ取ることが出来るんだと思った。
俺とは正反対の性格で俺が見ている世界とかきっと違った世界観を持っているのだろう、とも。
こんな事を考えているともう一つの思いが浮かんできた。
それは、手に入れたいという思いだ。
知人として、友人として、同居人としてではなく恋人という恋愛的な意味での手に入れたいだ。
俺は父親に言われた様に沢山の事が最初から与えられていて、そこから足していくのは難しい性格だった。
今までずっと本当に手に入れたいものが手に入らず後悔してきた事が多々ある。
学才も人から好意を持たれる容姿も羨ましがられる家柄も何もいらないから、普通の人が普通に味わえる幸せが欲しかった。
こんな悩みを持っている事はきっと贅沢な事なんだろう。
それでも、やはり普通の幸せが1番だと思う。
昔から俺は女にモテてはいたが、それは全然嬉しくも幸せでもなかった。
何故かと言うと俺のことをよく知ろうとせず、うわべだけで言い寄ってくるからだ。
容姿学歴がそこそこ良く、旧財閥宇佐見グループの御曹司としての俺しか知ろうとせず、ありのままの姿を誰も見てくれない。
こんなまま付き合ったって結局は別れるに決まっているだろう。
実際過去に何人かの人と付き合ったが、最終的には「こんな人だと思ってなかった。」「一緒にいても何にも得られない。」とか言われことごとく振られ続けてきた。
だからかずっと人と付き合うという事には抵抗があり極力しない様にしてきた。
それは男に対してもそうで俺の事をきちんと理解してくれる人以外とは距離を置いてきた。
俺の事を一人の友人として見てくれる孝浩、今でもよく一緒に酒を飲んでいる幼なじみの弘樹、現職小説家への道を与えてくれた井坂さんには、どうこう言いつつも感謝をしなければいけない人物だろうとは思っている。
俺の今までの人生で会って良かったと思う人達だから。
最近では・・・
「ウサギさん、何ボーとしてるの?
早く行くよ。」
俺の思いが叶い付き合っている可愛い恋人、美咲にも感謝をしている。
美咲は普段俺の代わりに家事全般をしてくれているし、30代にもなる良い大人な俺が沢山のクマのぬいぐるみやオモチャを持っている事に対し気持ち悪がず、一番大切なクマのぬいぐるみである鈴木さんのリボン替えを自分から進んでしてくれている。
また、複雑な家系である宇佐見家に引きもせずに父や兄や薫子、水樹に普通に接してくれている。
(父や兄からの大量のプレゼントにはいつも困惑しているが・・・)
性格も照れ屋で俺に対しては素直ではないが、頑張り屋で曲がった事が嫌いで、何事にも人の力を借りようとせず自分で努力をし壁を越えていく。
たまには俺に甘えてくれても良いと思う時があるがこいつにはこいつの考え方があるのだしそれはそれで良いかと思っている。
「・・・幸せだな。」
目の前にいる美咲が愛しくてそっと抱きついた。
「ウサギさん・・?」
どうしたの?と言いたそうな顔で俺を見上げてくる。
9歳年下の男にここまで骨抜きにされていると昔の俺が知ったらどんな反応をするだろうか。
きっと信じないか、信じたとしても唖然とするだろう。
それでもやはり、美咲の事が愛しくて仕方が無いのだから仕方が無い。
「いや、何にもない。
そろそろ行くか。」
「うん。」
この恋は危険な事だらけで、いつ終止符が打つか分からない。
それでも今幸せならそれはそれで良いのではないだろうか。
明日も明後日も同じ日常が来てくれたらそれ以上に心が満ち足りてくれる事はない。
新しい物語をめくる為に扉を開けた。


おまけ.

「乾杯ー。」
「乾杯。」
「ウサギさんお誕生日おめでとう。」
今日は俺の誕生日とホワイトデーのデートを兼ねて某ホテルのレストランへ来た。
個室が良かったので前もって予約をしていたから早く入れたが、予約をしていなかったらと考えると恐ろしい。
ちなみに原稿はいつも以上にスパルタで鬼の様に相川にせかされたので昨日終わった。
「ありがとう。」
「はい。プレゼント。」
太陽の様な笑顔でプレゼントを渡してくれる美咲に微笑を返してから受け取る。
一応開けて言いか聞いてからラッピングを開け何をくれたのか見るとそこには・・・
「ウサギさんこの間財布がボロボロになったって言ってたでしょ?
俺の給料じゃああまり高いのは買えなかったんだけど、その財布シンプルで使いやすそうだし、何よりウサギさんに似合うなと思って。
どうかな?」
飾りも何も付いていない財布で使いやすそうだ。
また俺好みの黒色の革の財布で長年使うことが出来るだろう。
「気に入った。明日からこの財布を使うよ。ありがとう。」
財布も気に入ったがやはり美咲が俺の事を考えて買ってくれた事が何よりも嬉しかった。
この財布のお返しと言ってはなんだが、俺もホワイトデーのプレゼントを渡す。
「えっ、これって・・。
俺が前から食べたいって言ってたクマバの期間限定のチョコじゃん。
最近忙しかったのによく買いに行けたね。」
「あぁ。本当は俺が買いに行こうと思っていたが、忙しかったから相川に頼んで買ってきてもらったんだ。
美咲が前テレビを見ながら食べたいと言っているのを聞いていたからな。」
「そっか。相川さんに悪い事したけど・・でも嬉しいよ。ありがとう。」
美咲のいつも以上に喜んでいる姿を見る事が出来て良かった。
やはりたまには原稿を早くあげて美咲とゆっくりするのも悪くないなと思った。

→後書き
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