内実コンブリオ
□第3章*第2話
2ページ/6ページ
本日も凛と参りましょう。
そう、くじけずに凛と…
「咲宮さん、これやり直して。こんなんじゃあかんわ」
「すいっ…」
ああ、変わらないと。
「…頑張ります」
「うん、頑張って?」
「はい…!」
何だか不思議な変化に気付きはじめたのは、つい最近。
女性の先輩方についてだ。
自分に向かってくる笑顔が増えた、ということだ。
最初は、気味が悪いなとか思っていた。
「悪いけど、今日あたし早退なんやんか。やから、過去の書類処分、頼んでもいい?」
「わかりました」
「頼むわ」
「はい」
疑っていた。
でも、先輩方は善良そのもので、失礼なのは自分の態度の方だと気付く。
本当はこんなにも優しい人達だったのに。
昔から人の第一印象を悪く見てしまう。
これが自分のいけないところなのかもしれない。
そして、もう一つ。
『頑張ります』
角野先輩と約束したこの言葉を使い出す様になってから。
言葉には言霊がついている、というけれど、本当にそのパワーなのか。
「すいません」という弱気に聞こえるその響きからの「頑張ります」はすごい力を持っている。
決して、力強いとは言い難い言葉だけど、「すいません」と「頑張ります」では、自分自身の気持ちの持ち様まで変わった気分だ。
そして、その言葉の力は自分から溢れ出して、周りに影響が広がっていく。
自分の思い込みが、目に見える気がした。
確実なんかじゃないけれど。
さて、昼からは書庫に篭るとするかな。
て、手が…いや、腕か…?
とにかくそこら辺が痛い。
外に出れば、もう真っ暗。
10月の午後7時といえば、当たり前か。
しかし、あんなに捨てる書類の量が多いとは思わなかった。
自分なんかが言うのも何だけど、もっと容量よく捨てようとは思わないのか。
こう…少しずつ少しずつ。
何年分もためておくなんて。
封筒の名前を切り取るだけでも大変なのに。
しかも途中でシュレッダーが壊れるという大事件。
手作業でいつまでも仲良しな文字たちを引き離していく。
文字たちには、少し悪い気はしたけれど。
…で、今に至る。
「…遅くなってしまったな」
星空が瞬く帰り道。
今日も無事終わりを迎えることが出来た。
さあ、お腹も空いたし、駅へ向かうとしようか。