内実コンブリオ
□第3章*第1話
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自分もおばさんになったもんだな、本当に。
皆さん、改めましてこんにちは。
時間が経つことは、恐ろしい。
自分、咲宮 華、26歳になりました。
しかも、いまだ彼氏いない歴=年齢を更新し続けております。
良い出会いもなかなかありません。
そんな自分が勤めているのは、ある非営利団体。
事務職をやらせていただいております。
就職してから一応4年ちかくにもなるというのに、全く仕事に慣れないという状況です。
しかし、本当にわからない。
「ウ゛ェ」てどうやって打つんだ。
手なら一瞬で書けるのに。
やっぱりパソコンって、苦手。
BYE?違うか。VYE?違う…。DYE、でどうだ!あ、違う…。
カタカタとキーボードを勢いよく打っては、首を傾げている自分にある人が近づいてきた。
「華ちゃん、どうしたんや!大丈夫か?てか、何してるんや!!」
「あ…」
自分のもとへやって来たのは、自分の上司である角野さん。
とてもお調子者で、よくからかってくる。
だけど、根は優しい。
何故か自分が困っている時には、必ず目の前に現れる。
「すいません。「ウ゛ェ」って、どうやって打つんですか?」
「ぶっは!アホやん!!そんなんでずっとそこで止まっとったん?!アホやん!ほんまアホ!!何や!『ウ゛ェ』て!アハハハハハ」
「アホですいません」
「うそうそ、冗談。華ちゃんは賢いで。かわえーし!」
「セクシュアルハラスメントはやめてください」
「えー。」
「えー、やありません」
「ちょっとくらい遊んでくれてもええやん?」
「勘弁してください」
「そんなに俺の事、嫌いなん?!」
とても面白い先輩。
一緒にいるのがとにかく楽しい。
結婚しているのかな…。
って、何を考えとんねん、自分!
昔から直らない、悪い癖。
優しくされたら、すぐに好きになる。
ひょっとしなくても、昔からそうだったのかもしれない。
あんた、それ騙されやすい女の特徴なんだよ、と高校の時の友達に言われた。
そうかもしれないとは思ったけど、そうでない時もあった。
確かにあった。
あの人。想い出の中のあの人。
でも、極力あの人には関わらない。
酷い事をしてしまったから。
あの人の中から自分の存在を消し去る。
それだけが自分にできるあの人への報いだと思ったから。
その決意は今でも続いている。
くだらない?仕様もない?くどい?しつこい?
自分もそう思う。
「なあ、華ちゃん?」
「ウ゛ェ」のローマ字の綴りをいつになっても教えてくださらない上司が言った。
「今日、夜、暇?」