内実コンブリオ

□第2章*咲宮side 後編
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自分独特のネガティブが止まらない。

今回ばかりは精神的にもっているのが、不思議なくらい。

今日は、嫌な事を忘れるために真面目に本を読もうと思うんだけど、あまり気が進まない。

字を見ていても、なんだか集中できない。

すると、自然と目が前に行ってしまう。

ああ、今日も二人は隣り合わせで幸せそうにいる。

やっぱりお似合いだなぁ。

素直にそう想ってしまう様にも思えるが、何か嫉妬に似た醜いものも混ざっている様に感じる。

もう、ごまかさずに言う。

正直、かなりうらやましい。

でも、自分には無理。今まで栗山くんにひどいことばかりしてきた。

あの人は水川たちとは違って、いい人だったのに。

近寄るだけでも、もう恐れ多いというもの。

後で気付いたって、もう遅い。

あの人は本当にかっこいい。

内面も外見も。

自分なんかが直接は関われないから、ずっとこっそり見ていた。

見る内が花。

今日も自分は栗山くんに、見惚れていた。

そう絶対、これから、二度と関わっちゃいけないんだ。





学生の本分は学問。

まあ、青春が出来るのも今のうちかもしれないけど。

最近、先生たちが進路のことで、うるさくなってきた気がする。

うちの天川(あまがわ)中学校は、実は相当な進学校だった。

地元では「機械製造所」だなんて呼ばれている。

それを知ったのは、中学2年生のはじめ。

近所の人に言われた。



「あの学校、賢いもんなー。みんな、優秀な子ばっかりやなー」

「県内トップレベルやし。将来、いい学歴持って、いいとこ就職するんやろうなー。おほほほほ」



そんな学校だったのか、はじめて知った、と最初は絶望したけど、自分のテストの順位が下から数えた方が早いことに納得した。

そして、自分に言い聞かせた。

大丈夫。自分は標準レベル。そうだ、そうだ。

一生懸命言い聞かせた。

そういえば、栗山くんはどこの高校へ行くんだろう。

まあ、知ったところでどうにもならないけど。

そろそろ自分も真剣に勉強するか。

といっても、本気でわからんっ。

今まで授業をまともに受けてこなかったのが、仇となった。

でも、どうせもともと先生からもあまり良くは思われてなかったから、どっちにしろ自動的に成績も生活点も落とされる。

自分の決まった進路は、県一の馬鹿校。

こんなこと栗山くんには、恥ずかしくて言えたもんじゃない。





風薫る季節も過ぎ、次第に暑くなる。

着ているポロシャツに汗がにじむ程になってきた。

また、夏が来る………



はずだったのかもしれない。

今の自分の心は冬だ。

自分の心はひどくすさんでいる。
なんか心なしか心だけでなく、本当に寒い気がする。

そりゃ、すさみたくもなるってもんですよ!

人気の無い階段の踊り場で女子に囲まれたら。

一体今度は何ですか。

今までのは心の声。

現実は恐いからずっと黙っている。



「あんたさー。結菜らのこと毎日、ジロジロ見んのやめろよ。気味悪ィ!!」

「結菜が嫌いなんか知らんけど、なんかあるんやったら、その付いとる口で言えよ!」



やたら声も図体もでっかい女子の後ろで結菜ちゃんが泣いているフリをしている。

わかりやすい嘘泣きだ。

仲間の女子たちはグルでやっているのか、騙されてやっているのか。

どっちにしろ、馬鹿には違いない。



「黙っとらんとさー」

「嫌いでは…ないです」

「うっせー!」



いやいや、何か言えって言われたから言ったのに。

次の瞬間、ドンッと自分の体から鈍い音が鳴ったと思えば、宙に浮いていた。

が、突き飛ばされ慣れていた自分は、あたかも何事もなかったかの様に、階段の1階分くらい下で両足をついた。

冷静に考えてみれば、漫画みたいだ。

意外と凄いのかも、自分って。



「別にあんたらは見てません。自意識過剰が過ぎるんちゃいますか?」



出た。自分の特技の一つ、人を苛立たせること。

この一言で、みんな役目が終わった劇員の様に次々と立ち去っていく。

それぞれの顔を見ていれば、自分のことを鬱陶しそうに睨んでいる。

数えてザッと7、8人か。少ない方だな。

一番最後に去ろうとした結菜ちゃんはピタッと立ち止まり、上から自分を見下げた。



「そんなんやから、友達できやんのやわ」



意味がわからん。

でも、めったに感情的にならない自分が少しムカついた。

少し悔しい。

しかし、あんなにも仲の良かった元幼なじみに言われたということもあり、悲しくなった。

昼休みだったので、いろんなものでぐちゃぐちゃになった苛立ちを解消すべく、中庭で和もうと歩き出したその時。

ビキィッ!

音に例えると、そんな痛みがはしった。

右足が痛い。

どうやら突き飛ばされて着地した時に捻ってしまったらしい。

でも、いつものこと。

無理矢理動かしておけば治るだろうと、そのまま中庭へ向かった。
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