お茶にしましょうか
□Scene 13
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無表情のまま、ミルクココアを転がし続ける江波くんを、私は見つめておりました。
すると、不意に江波くんもこちらを向き、目が十分に合ったのです。
しかし直ぐ様、目を逸らされてしまいました。
最初の頃こそ、傷付いてはいましたが、今はもう平気です。
そのようなところにも、愛しく感じるのです。
今日のミルクココアで、確信いたしました。
江波くんは、可愛いらしい方です。
そのようなことを考えていると、江波くんが何かを言おうとしていました。
「あ、あのー…」
「はい。」
「部活、行ってないんですか?」
未だに目は逸らされてままではありましたが、その江波くんの言葉に私は動揺してしまいました。
何と答えれば良いものか、私自身の中で迷いがあったのです。
しばらく私は、黙り込んでしまいました。
すると、江波くんはいつもの通りにして、私のその様な様子を見ては、慌ててらっしゃいました。
申し訳なく思ってはおりますが、薄暗い感情が込み上げてしまい、自身でも制御することが出来ないのです。
江波くんは私を見兼ね、私の持つ缶に手を触れられました。
私が少し驚き、缶を持つ手の力を緩めてしまうと、愛らしいオレンジのキャラクターの描かれた缶が宙に浮いたのです。
いえ、そうではありません。
江波くんに、持っていかれたのです。
そして、江波くんは缶の口を開けると、再び私に差し出したのでした。
彼とは、このような気遣いをさりげもなく、出来てしまう方と知って、私のときめく心は止もうとしません。
江波くんが私の表情を窺う様にして、おっしゃいました。
「まあ…まだ時間は、いくらでもあるので…」
そう言うと、またお互い黙り込んでしまいました。
私が話せる様になるまで、それまで一緒に居てくださる、ということでしょうか。
それでは、このまま待たせてはいけない、私はそう思いました。
さて、では一言目は、何と切り出しましょうか。
「あのですね…
先生や学校から言われてしまい、音楽室を使うことが出来なくなってしまいました。」
私の発した一言目に江波くんは、呆気にとられていました。
「人が集まらないのですから、仕方がないですよね。…悲しいですけれど。」
「そんなことがあったんですね…
無神経に聞いてしまい、すみませんでした。」
「いえ、大丈夫です。」
そのまま私は、下を向きました。
しかし、江波くんは腕組みをして、上を向いていたのです。
「それは、人数が絶対の条件なんですか?」
「え、ええ。きっと。」
「人数が足りなくても、練習場所が必要だ、と学校に知らしめればいいのでは…
その場合、部活ではなく、同好会という形になりそうですが…」
「ごめんなさい。少し理解が追いつきません。」
「えっと…
俺は音楽の世界のことは、全く知りませんが、何か大会などはあるんですか?」
「夏には吹奏楽のコンクールといって、まず地方で競うものがあります。
あとは…ソロコンテストや少人数で行う、アンサンブルコンテストがございます。」
「お、おお…
何やらたくさん、あるんですね。
では、そういった大会を目指すために、練習場所が欲しい、と伝えるのは、どうでしょうか…」
「そういった手もあるのかもしれませんね。」
それについて私は、あまり納得することが出来ませんでした。