お茶にしましょうか

□Scene 12
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「いつも江波くんは、私を癒してくださいます。貴方の存在だけで、とても有難いのです。江波くんが私にとっての害になるだなんて、決してありません。
ですから、どうか、お気に病まれないでください。」



彼女は軽く会釈をすると、そのまま行ってしまった。

俺はそれを、引き留めることができなかった。



「ひゅー、お熱いねぇ!」

「おい、江波!癒すって、あの子に何したんだよ‼」

「すっかりあの子の王子様だね、江波。」

「王子っ言(つ)っても、頭、坊主だけどな!」

「ばっ…!お前らっ‼」



しくじった。

こいつらが直ぐ隣に居ることを忘れ、深海魚の君に声をかけてしまった。

冷静ではあったが、後先を予測することをすっかりと忘れていた。

声をかけたのは、別に下心などではない。

ただ淋しかったのだ、俺が。

チームメイトたちの冷やかしに一々反応しながらも、目線だけは、徐々に小さくなっていく彼女の姿を見送っていた。

その姿とは、あまりにも弱々しく見えた。



「別に、追いかけて行ってもいいんだぜ。」

「お前ら、本当にいい加減にしろよ…!」

「赤い顔で言われても、説得力ねぇよ。」



これは無意識だった。

ああ、このままでは、納得がいかない。

はっきり、明確にする必要がありそうだ。






その翌日のことだ。

もう待つことはせず、積極的に行こう、そう思った。

たった今、 俺は下級生の教室が並ぶ棟に居た。

昨日の深海魚の君がどうにも気になってしまい、ここまで来たのだ。

これではまるで、吹奏楽部である彼女に聞きたいことがあり、いつかに音楽室へ赴いた時の様である。

その時には、彼女が何処に居るのか、場所が特定されていたため、直ぐに出会えた。

しかし、今回ばかりは組もわからなければ、名前すらもわからない。

さて、これは一体どうしたものか。

こうして、廊下をうろついていても、周りの目線が突き刺さるだけである。

俺は今、何か可笑しなことをしているだろうか。

いや、していない。

学年の違う棟に居る、ということ以外は、だが。

俺は決して、不審者ではありたくない。

しかし、問題点が一つある。

時間だ。

授業の合間の休み時間で、ここへ来ているため、あまり時間は無い。

残すところ、5、6分といったところだ。

これでは、あまり話すことも出来ずに終えるだろう。

窓側の壁に寄りかかった。

それから、数秒もしない、ほんの直ぐのことだった。



「あら?」



誰かが俺に関心を持ったらしく、声をかけてきたのだ。
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