お茶にしましょうか

□Scene 10
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俺は、授業が終わって直ぐの教室にいた。

次の化学の時間に提出することになっている宿題の問題集を、チームメイト兼友人に写させているところであった。



「なあ、あの子こと…どう思う。」

「あ?」



俺の突然の問いに、必死に問題集の解答を写していたチームメイト兼友人が、顔を上げる。

そして、如何にも鬱陶しそうな様子で俺を睨んだ。



「だから、あの…」



少し言いかけて、俺は悩んだ。

あの子、深海魚の君の本名が思い出せない。

確かに聞いた、という記憶は残っているはずなのだが。

彼女のことを口に出して「深海魚」と呼んでしまうことに、俺は少しの抵抗があった。

何より、失礼ではないか。

しかし、このままでは話は進まない。

俺はやむを得ず、その単語を口にした。



「し…お前らのよく言う、深海魚の子のことだ。」

「ああ?
…まあ、独特な雰囲気のある子だよな。ちょっと可笑しい感じの。」

「可笑しいって、お前…」

「なんだよ、お前。好きなのか。」

「―っ!
な、なんでそうなるんだ!」

「そうにしかならねぇだろ。」



そう言ったチームメイト兼友人は、白々しそうな視線を俺へと送る。

実際、俺が話したかったのは、こういった事などではなかった。

俺は、見てしまったのだ。






それは、一つ前の休み時間のことである。

俺は、今後の進路の関連で、職員室に呼び出されていた。

職員室の扉を渋々開くと、不意に正面から衝突してきたものがあった。

見下ろすと、そこには深海魚の君の姿があったのだ。

ああ、また彼女を転ばせてしまった。

俺は、不安や恐怖心から、態度を落ち着かなくさせてしまう。

そのような状況でも、目の隅に入ったものがあったのだ。

床に張り付いているかの様に、伏せているA5サイズの紙だった。

それが、俺を驚愕させた原因である。

その時は何も知ることのない俺が、それを拾う。

題として『数学 小テスト』と、お世辞にも綺麗とは言えない、教師の字で書かれていた。

そして、俺が驚いたのは、その後だった。
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