お茶にしましょうか

□Scene 9
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顧問の運転する野球部専用バスは、ようやく学校に到着した。

できることならば、このまま延々とバスに揺られていたかった。

もう何も考えられなかった。

考えたくはなかった。

俺たちの夏が終わった、なんてことは考えたくはなかったのだ。

帰りのバスの中は、たった今でさえ、馬鹿騒ぎしていた行きとは比べものにならない程に、静まり返っている。

この後にあるであろう反省会は、陰気な雰囲気となることは、まず間違いない。

そもそも俺自身が、その一人となる。

何と言ったって、これで俺たちが高校で野球漬けになる日々は、閉ざされてしまったのだ。

再挑戦できる機会など、もう二度とない。

おまけに、初めての状況にも遭遇してしまった。

ベスト4にまで勝ち上がってしまったのだ。

うちのようなほぼ、無名校が。

夢物語のような甲子園が、脳裏をちらついていたのも事実だ。

これではあまりにも悔しくて、仕様がなかった。

前向きに事を考えてみれば、最後の最後でよい体験ができた、とも言える。

これ程にも勝ち進めたのは、3年目にして初めての快挙だと言ってもいいだろう。

後輩たちには、これを次回の結果へと繋げていってほしい。

もう俺たちは、次の代へ託すしか他にないのだ。

だからこそ、遣る瀬無い。

現状を受け止めることはできても、気持ちだけは絶対に、ついて来ようとはしてくれないのだ。

ようやく、バスの座席から立ち上がる気になった。

バスから降り、荷物の運搬を始める。

トランクから荷物を引きずり出し、後輩へと指示する。

たった今は、体を頭を動かすなりしていないと、情けないことに精神を保つことができないのだ。

続いて指示を出そうとした時、後輩たちの隙間から、不意に見えたものがあった。

それは、黒いケースを肩から背負う姿だった。

それは間違いなく、深海魚の君である。

しかし、俺というという奴は、彼女の姿を見て見ぬふりしてしまった。

今はとてもじゃないが、こんな顔を見せることなど、できるはずがなかった。

今日の結果だけで、頭が胸がはち切れそうなのだ。






Scene 9 越えるべき己と現
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