お茶にしましょうか

□Scene 9
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現在、ピッチャーの球数は、あと少しもすれば180をむかえようとしていた。

徐々にピッチャーにも、疲れの色が見え始めていた。

彼には元々、スタミナがある方ではなく、今は非常に踏ん張っていることがよくわかる。

幸いにも未だ、甘い球はそこまで目立たない。

あったとしても、相手方も余程、強張っているらしい。

珍しく打ち損じてばかりいた。

チームメイトの誰もが、この試合いけるかもしれない、ベンチ、応援席、フィールドに立つ者たち、皆が思っていたことだろう。

その時だった。

キンッ―

嫌に甲高い音が、場内に鳴り響く。

そのように思ったのは、俺だけだったのだろうか。

考えている間にも、白い球体はセンターを目がけて飛んできた。

フォローのために、必死に駆けだす。

しかし、様子がおかしい。

こちらがどんなに走っても走っても、ボールが落ちてくる気配はない。

それどころか、大きく大きく緩やかな弧を描いて…

気づいた時には、外野をも超えていた。



『―逆転!サヨナラ勝ち!!』



それは見事に、ホームランだった。

対戦校を応援していたであろう人々が、関係者らが、大歓声を上げる。

その瞬間にちょうど、心の臓が存在するあたりを思い切り、えぐられる様な想いがした。

そこではじめて、無理矢理に、現状を受け入れさせられたのだ。

無理矢理にでも、認めざるをえなかった。

我々の敗北を。

今の今まで強張っていた俺の身は、芯を失くし、その場で膝から崩れ落ちた。

俺の少し先に居る、センターを守っていた同級生のチームメイトが目に入る。

地面に額をこすりつけ、這いつくばっていた。

チームメイトのその姿に、どうしようもなく、胸が締め付けられる想いがしたのだ。

どうしようもなくなった想いから、どうにかしてしまいたいと強く、俺自身の利己心が騒ぐ。

這いつくばったまま、動こうともしない彼に覚束ない足で歩み寄る。

尚も微動だにしない。

正直のところ、彼に声をかけることに気が引けた。

何と言って声をかければいいのか。

それすらも今の状況では、思考回路が機能しない。

そのような俺がとった行動、それが良かったのか、なんてことはもうどうでもよかった。

彼の横で片方の膝をつき、彼の背中にそっと手を添えた。



「……整列だ。整列しよう。」



すると、彼はゆっくりと立ち上がり、俯いたままでいた。



「………行こう。」



お互いで支え合い、重い足を進めた。
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