お茶にしましょうか

□Scene 6
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『それなら、貴女もマネージャー、してみたらどうです?』

『いえいえ。大変嬉しいお誘いではありますが…私、あいにく吹奏楽部なもので。』



すると彼女は、可笑しなものを見る様な表情でした。



『うちに吹奏楽部なんて、在りましたっけ?』



なんて強い方なのでしょう。

なんて酷い方なのでしょう。

真顔で言われてしまいました。

よく見れば、私が彼女を敵視するように、彼女も私のことをあまり良くは思ってはいないでしょう。

彼女と相反している私は、すぐにでもこの場を逃げ出したくなりました。

しかし、自分から荷物運びに踊り出たのです。

とりあえず、勝手に手を出した責任をもって、最後まで全ての荷物を運び届けたのでした。

その後はというと、お互い一言も交わさずに、そのまま別れたのです。

彼女が私の恋敵である、ということの他にわかったことが、もう一つありました。

きっと私は彼女が苦手なのです。

人とお喋りをする時に、こんなにも息苦しくなるのは、初めてでした。

それどころか、人が恐い、とも少し思えてしまいました。

しかし、こんなところで怖じけづく様な私ではありません。

言われっぱなしのままでは、あまりにも悔しくて堪りませんでしたから。

私は、まるで犬の様に唸っておりました。

昼までの授業に終わりを告げるチャイムが、私をやっと人間に戻してくれたのです。

こんな気分の時は、相棒と共に思いっ切り暴れるに限ります。

教室で弁当を食べる、というより弁当は流し込む様にして、箱の中身を片付けます。

そして、隣の棟の最上階に在る、音楽室まで駆け抜けるのです。



「こら!萩原ぁ、ろう下は走るな!!いっつも言ってるだろ!!」



そう、これは私の日々の日課の一つ、昼の休みにする練習、略して昼練といいます。

先生が叫びながら注意する声が聞こえますが、一切気にいたしません。

この角を曲がると、渡り廊下です。

少し大回り気味に、加速をつけました。

その時でした。



「きゃっ!」



私は反射的に、素っ頓狂な声を上げておりました。

しかし、大したこともなく、尻餅をつき、ただお尻が痛かった、という程度でしょうか。



「す、すいません…」



すると間もなく、声が上から降ってきたので見上げると、そこには憧れの江波くんが、こちらに手を差し延べてらっしゃったのです。

相変わらず、唇を噛み締めてみえました。
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