お茶にしましょうか

□Scene 4
2ページ/3ページ




今ではこのノックですら、時折足が竦むことがある。

青空を滑る様に、自分を目掛けて飛んでくるボールを目で追う。

すると、またあの時のエラーがちらつく。

また俺の思う少し前方に落ちる。

慌てて拾おうとすれば、汗で滑り、全てが間に合わずに終わる。

全ては俺のせいだった。

過去に縛られ続け、現在行われている練習にすら集中出来ていない。

そして、思う様なプレイが出来ない。

全ては恐怖心から来るものだ。

それでもやる、と決めた。

あの子の言う通り、信じることを諦めない、そう心に言い聞かせる。

それでもなお、恐怖の圧力が俺にのしかかる。

悔しい程に、足の震えは止まりそうもなかった。



「畜生…」

『…自分や、仲間を信じているからこそ、ではないのですか。』



あの子の声が、頭でまたもちらついた。

ぐわん、ぐわんと揺さ振る様に頭を響く。



「わかってる、わかってんだよっ…」



俺は声を絞った。

葛藤している間に、俺とボールの距離が縮んでいた。

グラブの手を空に翳し、こんな大袈裟な賭け事を考えた。

そして、誰にも聞こえない様に呟いた。



「落とせば、辞退。捕れたら、継続。…そして、ほんの少し、上を目指す…!」



その直後にきたグラブが良い具合に響く音と、何とも心地好い衝撃が俺を高揚させた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ