お茶にしましょうか

□Scene 3
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あたりはすっかり暗くなり、下校時刻となりました。

その時刻は、この学校に一般の生徒が居残ることが許される限界、8時。

私は、急いでいました。

最上階4階から校舎の階段、ろう下を駆け抜け、やっとの思いで1階の昇降口へたどり着きました。

何をそんなにも急いでいるのかといいますと、ある光景を見たからなのです。

ほんの5分前のこと、本日の練習も終わり、楽器の手入れをしている時でした。

相棒を磨きながら、昼間の賑わいを無くした面影を眺めていると、ある人影が見えたのです。

あの静かになったグラウンドでたった一人、ひっそりと走っているではありませんか。

それが誰であったか、そんなことはすぐにわかってしまいました。

ですから、私は今こうして息を切らしながら、彼をもっと近くで見ることのできる位置までやってきたのです。

ネット越しに見る彼の姿は、まるで何かを背中に背負っている様でした。

どれだけ走っているのか、辛そうな表情でいました。

きっと何度通過したかもわからない地点にいる私を見つけて、江波くんは立ち止まってくださったのです。

浅く会釈をする彼は、額の汗を拭い、苦しそうに肩で呼吸をしていました。



「いいのですか?立ち止まってしまっても。」

「これは…自主的なものなので。」



そうおっしゃる彼の目は、暗く濁っている様に感じました。

周りが暗いせいもあるのかもしれませんでしたが。



「昼の試合、観てました。やはり、格好いいな、なんて…」



嗚呼、私はこんなにも江波くんを好きでいる、そんなことを今日だけでも、何度想ったことでしょう。

しかし、それを言った瞬間、彼は驚いた様子でした。



「見ていたんですか、あの瞬間も。」

「エラーのことですか?」



すると、彼らしく小さな溜め息を漏らし、いつもの彼らしくない表情になったのです。
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