お茶にしましょうか

□Scene 1
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昨日のあの人は本当に、大丈夫だったのだろうか。

未だに心配になる。

あの人は、気づくべきことに気づいていない。



『大丈夫ですよ。何処も怪我なんてしてませんから。』



何やらそんなことを言っていたが、そんなはずはまるでなかった。

俺は確かにこの目で見た。

あれが怪我でない、と言うはずはない。

なるほど、この人は今の状況を何一つ覚っていない、それがよくわかった。

その証拠にあの人は今、よく目立っている。

俺はあの女子生徒を此の方、見たことはなかった。

失礼なはなし、俺はあの人の存在を一切知ってはいなかった。

きっと俺にとっては、学校内の生徒Aでしかなかったのだ。

が、廊下でよく見かける様になってしまった。

すれ違う時の罪悪感は、尋常ではない。

なぜなら。

眉間辺りが、見事な程に腫れ上がっている。

例えるのであれば、まるで深海魚の様だった。

一応女子であるあの人に、この俺がなんて事をしてしまったのだろう。

一体どの様にして詫びれば許してもらえるのだろうか。

昨日彼女は、大丈夫だ、とは言ってくれたものの、内心ではきっと俺のことを間違いなく、恨んでいるはずだ。

嗚呼、恐い。

もっと謝っておけばよかった、とたった今後悔している。

よく目につくようにはなったが、声をかける勇気もない。

毎回すれ違う度、俺は気づいている。

いやでもあのおでこは、見過ごすことなど出来るはずはない。

しかし、彼女は俺には一切気づいてはいない。

そりゃ、男は基本、坊主頭をしている。

以前の俺だって、一つひとつ女子の顔なんて覚えてはいない。

そもそも見たことなんて、一度もない。

それと、同じだ。

ただでさえ俺の周りは、坊主の集まりだ。

別に、修行をしている奴らというわけではない。

野球部の特徴で皆、頭はすっきりしているのだ。

こう言って、言い訳をすれば許してもらえるわけなど、当然ない。

嗚呼、目の前を、また深海魚が通過して行く。






Scene 1 歩く深海魚
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