お茶にしましょうか
□Scene 17
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マネージャーの彼女は、私の正面に歩み寄ってらっしゃいました。
そして一言、このようなことをおっしゃったのです。
「マネージャーしてくれませんか?」
これには、驚きました。
あまりにも突然でしたから。
しかし、これについては、過去にもお断りした筈でした。
「やはり、私は『吹奏楽部』一筋で居たいですから。それに、今はやりたいことも増えてしまいました。ですから―
「一番、最初に言ったときは、本当に冗談だった。でも!ここ最近のあなたを見てきて、あなたにお願いしたいと…思ったの。」
まっすぐな彼女の眼差しに捕らえられてしまい、私は固まる他の術を失くしてしまいました。
「私はもう、卒業してしまう。私、こんな性格だから、誘ったって誰も来てくれないし…
嘘みたいな話でしょ。でも、本当なの。」
「まるで、私と同じですね…」
「そっ、そうよ!
…だけど、あなたと私、違うところがあるの。」
これまでのお話でさえ、驚きの連続でしたのに、彼女はさらに気になることをおっしゃるのです。
「私は、断られ続けて、諦めたわ。そして、そういう人たちと関わることを、敢えて避けてきた。でも、あなたは…
あなたのことを断る人にも、割って入る努力をするのね。あなたは何時だって、意地汚い方法でだって、絶対に諦めないのね。」
そして、彼女の表情は、今までに見たことない程に、必死でいらしたのです。
私は、親しく聞いて差し上げたくなりました。
しかし、私には野球部のマネージャーは務まらない、と思いました。
それに加えて、リョウさんに触れる時間が、減ってしまうかもしれません。
それは私にとって、非常に死活問題となりうるのです。
胸が痛みますが、お断りしなくてはなりません。
やはり、私はどうしようもない程に、自分勝手なのです。
彼女のおっしゃる通りに、意地が汚いのです。
「ありがとうございます。今のは、お褒めの言葉ととって、よろしいのですよね?
しかし…ごめんなさい。私は、あなたの様に彼等の輪に交わることは出来ません。」
私がそう言った後、彼女のお顔は、少し険しくなったのです。
「そんななくせにですか?」
「ええ。きっとあなた程の方は、いらっしゃいませんよ。
あれ程の方のお世話を、お仕事をこなして、皆さんから慕われて。おまけに、厳しい言葉を言っても、凛としていらして。
私の他にも、あなたを敬っている方は、そう少なくないはずです。」
「なっ…」
『いつもあざっす!』
「感謝してますよ、姐さん!!」
「ちょっと!やめてよ!!」
やはり幼馴染でらっしゃいます。
反応が、江波くんに似てらっしゃいますもの。
つい数分前の江波くんが、からかわれている時のように、私は笑ってしまいました。
すると、ふいにマネージャーの彼女は振り返り、その視線は私を再び捕らえました。
そして、リョウさんを指差し、こう言ったのです。
「ど、どうせ、放課後はそれ吹いてるだけなら、マネージャー出来るでしょ!!」
大きな声を出し、彼女は確かにそうおっしゃいました。
いつもの毒ある台詞とは少し違い、思わず真意を吐き出してしまったらしく、彼女は口元を覆って、少し震えてらっしゃいました。
そういう時は人間であれば、どなただってあるでしょう。
もしくは、それが無ければ、人などではないでしょう。
私はそう思う人間なので、彼女を責める気など一切、起こりませんでした。
未だ震える彼女に、なるべく優しく言葉をかけようと、私は口を開こうとしました。
しかし、それは見事に遮られたのです。