お茶にしましょうか

□Scene 16
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一つ、嫌な筋書きが、頭に浮かぶ。



「ふーん、赤くなっちゃって。可愛いね。」

「え…」



彼女は、更に赤くなっている。

俺は、更に青くなる。

しかし、俺はこの瞬間まで、忘れていた。

彼女は、常に斜め上を行く深海魚であることを。



「そ、そんな、ありがとうございます。お世辞でも照れてしまいます。
しかし、そうおっしゃる、あなたの方が可愛らしいお顔立ちされていますよ。私は、そう思います。皆さんも、いかが思われますか?」



屋台の中に居る野球部や、組の人たちは次々にうろたえ、戸惑っていた。

しかし、チームメイトが一人呟くと、徐々に盛り上がっていた。



「確かにっ!」

「あはは!萩原ちゃん最高!!」

「そいつ、確かに可愛い顔してるわ!!」



とうとう俺の隣で、たこ焼きを一緒に焼いていた奴まで同意をし出す。

俺もその場の乗りで、口を開こうとしたが、慌ててそれを止めた。

奴が既に、俺の隣まで迫っていたからだ。



「へえ。江波まで、そんなこと言えるんだ?」



一瞬にして、背筋が凍った。



「お前、何が目的であの子に話しかけ―

「焦った?」

「なっ?!」

「あの子は、新たな食えないタイプだね。」



俺はこいつの罠にまんまと、のせられた。

本当に複雑で、利口な奴である。

全く、末恐ろしい奴だ。

決して、口に出しては言えないが。

俺が黙っていると、奴はいつもの気怠そうな声で言った。



「もう何でもいいからさ、早く焼いちゃってよ。2人分ね。」

「は?2人分?」

「うん。急ぎで。」



言われるがままに、焼く。

焼いたものを、奴がパックに詰める。

作業は滞りなく、直ぐに済んだ。

そして、その2人分のたこ焼きを、奴が俺にへと差し出した。

わけがわからず、俺は疑問符を飛ばす。



「なんかうざいから、二人で、他所で食べてきてくれる?」

「な…っ?!」

「早く行っといでよ。」



いくらこいつに背中を押されたからと言って、容易に彼女と二人きりになるのはいけない。

何と言っても、彼女には好きな人が居るらしいのだから。



「ついでに回って来い。こっちは俺等で適当にやる。言い訳はいくらでも、しまくっておいてやるからよ。」



みんなには申し訳ないが、このような心遣いは正直、要らない。

今日のみんなは一体、どうしたというのだ。



「おい!!江波!」



よく叫ぶ奴が、俺のすぐ隣で叫んだ。

やめてくれ、これ以上、後押しするのは。



「お前はたこ焼き代、ちゃんと払って行けよっ!!」



何故だか、こいつが耳元で叫んだ後、緊張の糸が解けたのか、よくわからないが、こだわっていたことが、一気にどうでもよくなった。

財布から450円を取り出し、よく叫ぶ奴に手渡す。



「悪い。早めに戻る。」



自分で「悪い」と言っておいて、何が悪いのか、よくわからない。



「別に戻ってこなくてもいいから。」



よく毒を吐く奴の横を通った時、そう言われた。

その台詞に「絶対戻ってくる」と、つい力んで返した。

何故だ。

俺は、これから戦場にでも向かうのだろうか。
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