羊かぶり☆ベイベー
□Five sheep
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カウンセリングの翌日。
私はつい先ほど、ユウくんと約束した鍋料理のお店に到着したところだった。
約束の10分前。
私たちの夕食デートは、基本、現地集合だ。
これについて私は特に思うことも無いので、もし文句を言う人が居ても何ら気にしない。
とりあえず、メッセージアプリで到着報告くらいはしておこう。
アプリが起動すると同時くらいに、見知った車が駐車場に入ってきた。
向こうも私に気付いたようで、偶然空いていた私の隣に駐車した。
「お疲れ様です」
先に私が降りて、ユウくんを出迎える。
「お疲れ。待たせた?」
「ううん。私もさっき着いたところ」
彼は相変わらずの無表情で「そっか」と返すだけだった。
そして、そのまま店内へと向かう。
「2人で予約した、繁田です」
入るなり、ユウくんは店員に言った。
「ありがとう……予約してくれてたの?」
「念のため」
シンプルに答えるだけで、やはりそれ以上は無かった。
店員に促され、彼の後に続く。
「さて、何飲む? いつも通り、烏龍茶?」
席に着くとメニューを広げながら尋ねるユウくんに、私は首をゆっくりと横に振った。
それに、彼は少し驚いている。
「え……じゃあ、何にする?」
「今日は……あ、これ。ノンアルの梅酒にする」
お品書きに書かれた梅酒の文字を見つけて、妙なことをしているような緊張感と、お酒紛いでも飲めることに気分を昂らせながら、そこを指差す。
ユウくんは気にしない素振りで店員を呼び、注文してくれた。
しかし、やはり気になったのか店員が去った後、話題を出してくる。
「みさおちゃん、普段、酒飲むの?」
「うん、まぁね」
「結構、いける方?」
「……まあ、そこそこ」
私は嘘を吐いた。
自信無さげに、敢えて答える。
お酒が好きか、と聞かれると肯定はし難い。
ザルなのか、と聞かれたら否定する。
そんな程度のあやふやなものだからだ。
いつも通りに「へぇ」とだけ言って、お冷やを喉に通す。
その短い返しに、直ぐにハッと思い出す。
――今、ユウくん「へぇ」って言ったのに!
表情なんて、全く見ていなかった。
私はその時、どこを見ていた?
記憶に無い。
逃してしまったチャンスは、仕様がない。
また巡ってくることを待つしかない。