羊かぶり☆ベイベー

□Four sheep
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同期の汐里と、ばったり社員食堂の前で居合わせたため、一緒に食べることにした。

そうして、2人で食堂内に入ったのだが。

今日の食堂は、普段に比べて何倍も賑わっていた。

そのとき、汐里が女性が群がっている奥の方を指差す。



「ねぇ、あれ。あの集まり、何だと思う?」

「んー、何だろうね」



私も背伸びをしながら見るものの、その群衆の中心は見えない。

まあ、それはそれで一切関わらずに置いておいても、何一つ問題は無い。

そもそも、私たちは食堂へ昼食をとりに来た。

それ以外のことをする必要は無い。



「まぁ、いいよ。食べよ」

「みさおは、気にならないの?」

「うん。それより、お腹減っちゃって」

「相変わらず、マイペースだねぇ。まぁ、そういうところが良いんだけどさ」



「ありがとう」と言えば、汐里は悪戯っぽく微笑む。

その明るい垢抜けた様は、私にはとても眩しい。

券売機で、おろしハンバーグ定食の券を買い、カウンターへ進む。

すると、先程の賑やかな群衆へと、より近付くことになる。

定食を受け取るために、カウンターを4、5歩横移動したときだった。

突然、汐里が声を漏らした。



「イケメンがいる……」

「え?」



私は、汐里の視線が向く方を確かめた。

そして、確かに私にもその汐里曰く「イケメン」の人物が見えた。

思わず、肩が跳ねたのは、おそらく私だけだと思う。

その中心に見えたのは、私の見間違いでなければ、あの人だった。

驚いて少しの間、私は固まってしまった。



「吾妻さ──」



驚きが声になってしまったとき、不意にあの人がこちらを向いた。

明らかに、目が合う。

ああ、馬鹿。

さっさと前を向いて、湯気の立つ素敵なおろしハンバーグ定食を受け取ってしまえば良かったのに。

慌てて、体ごと顔を逸らしても、後の祭。

出来れば、気付かれたくなかった。

だって、社内の人には、この関係をあまり知られなくない。



「見えた? ね、かなりイケメンじゃない?!」



嬉しそうにはしゃぐ汐里に、愛想笑いをしておく。

私にとっては知り合いなものだから、何と返事をしたら良いか分からない。

非常に複雑な心境になる。

少し思い悩んでいると、汐里が騒がしくなった。



「ちょっ、みさお! みさお!」

「もう、何──」

「どうも、みさおさん」



肩に誰かの手がのせられ、小さく悲鳴が上がる。

恐る恐る振り返ると、そこには案の定、吾妻さんの姿が。



「これから、ランチですか?」

「あ、はぁ……」



先程、汐里に向けていた愛想笑いを、今度は吾妻さんに向ける。

私の反応に、一瞬だけ困り顔を見せた吾妻さんは、直ぐに微笑んでみせた。

その気遣いに、心が痛む。



「突然、話し掛けて迷惑だったね。ごめん、ごめん」

「あ、いえ、そういうことじゃ……」

「俺にまで、そんなに気ぃ遣わなくていいよ。じゃ、またね」



吾妻さんは手を振って、その場を去って行った。

──気を遣ってくれたのは、吾妻さんの方なのに。

申し訳なさから、その背中を目で追ってしまう。



「ちょっと、ちょっとぉ?」



汐里が、私を怪しげに見た。
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