お茶にしましょうか

□Scene 13
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ある日の休み時間に、私は愛しの江波くんをお茶にお誘いしたのです。

場所は、帰り道の途中にある、近所の公園にいたしました。

さらに、それに加えて言えば、たった今は自動販売機の前にて二人、立ち尽くしているのでした。

何故か二人して動こうとしませんでしたので、私が先陣を切ろう、と思いました。

肩に掛けている鞄から財布を取り出そうとすると、江波くんの目は瞬時に私の動作を捉えたようです。

そして、江波くんは掌を見せるようにして、突き出してきました。

そのまま江波くんは、私の一歩前に出られたのです。



「何を飲みますか?」



ただその一言を言って、私が答えることを待っていらっしゃいます。

ああ、なんて紳士な方なのでしょう。

私がこの様にして、心奪われている間にも、腹を立てることもなく、静かに待ってくださっています。

このままで、しばらく江波くんの姿に見とれていたいとも思いましたが、そういうわけにもまいりません。

とりあえず、自動販売機に並ぶ、飲み物たちの陣容を眺めました。

赤いデザインのストレートティー。

白に青のドット柄でデザインされた、カルピスウォーター。

紫の葡萄がでかでかと描かれている、微炭酸飲料。

黄緑色にデザインされた、無難な緑茶。

どれも、好きなものではありました。

しかし、今の気分ではこちらです。



「オレンジジュースがいいです。」

「…今日は、可愛らしいもの、飲むんですね。」



少し驚いた様子の江波くんは、自動販売機に小銭を入れながら、そのようなことをおっしゃいました。

本来ならば、その「可愛らしい」という言葉は、どちらにとるべきなのでしょうか。

他の方なら、きっと思われるのでしょう。

これは、小馬鹿にされているのでしょうか。

はたまた、これは褒められているのでしょうか。

もちろん私は、後者をとります。

私は嬉しく思い、熱い顔のまま、江波くんから差し出されたスチール缶を受け取りました。



「ありがとうございます。」

「いえ。」

「江波くんは、何を飲まれるのですか?」

「俺は…」



少し迷う仕草を見せた後、江波くんが手にしていたものは、ミルクココアでした。

江波くんの方が可愛らしいものがお好きなのだと、私は思います。

そして、私たちは木陰のベンチに座りました。

これでは何だか、お付き合いをしている様に見えるのではないでしょうか。

私は、かなり浮かれていました。

それは、何故かというと、愛しの江波くんがたった今、私の隣にて、ミルクココアを手の上で転がして遊んでみえるのですから。
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