お茶にしましょうか

□Scene 12
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俺の勉強の方は、かなり順調だ。

見かけによらず秀才なマネージャーに怒られながら日々、勉強をしている。

1人ではなく、よく慣れ親しんだ仲間たちと共に、勉学に励んでいるのだ。

そのためか、勉強が楽しい、と感じてしまっている。

しかも、それに加えて、深海魚の君も居る。

ある日の放課後、彼女が俺たちの勉強会を覗き込んでいたことをきっかけに呼び込んだ。

快く同意をくれ、それから毎日のように一緒に勉強をしていた。

俺の勉強がはかどるのには、彼女のことも関係しているのかもしれない。

マネージャーのあいつも、深海魚の君と仲良くなっている様だった。

俺にとって、それが妙に嬉しかった。

その他諸々があって、本当に勉強をするということが、楽しく感じてしまうというのだから、驚きだ。

いつの間にか、放課後が待ち遠しくなっている。

少しばかり心に余裕ができた俺は、たった今、放課後だがグラウンドを眺めていた。

これも1人ではない。

俺と同じく、それぞれの進路への不安を一旦、横へ退けているチームメイトの数人で、だ。



「あ。あいつ、今ミス、誤魔化したね。」



毒々しく呟いたのは、俺の隣の奴だ。

俺たちは後輩たちの練習風景を、ネット越しから後輩の誰にも知られないようにして、見守っているのだ。



「あいつ、もっと後ろに下がれよ、下がれって!」

「はい、ばんざーい。」

「俺も昔やったわ、あれ。」

「うそ。あんなの今時、小学生でもやらないでしょ。」



見守っているのだ、誰が何と言おうと。

とにもかくにも、この後には俺たちも練習に参加する予定だ。

今まで慣れぬ、勉強などというものをしていた。

体が疼いて、仕方がないのだ。

俺を含め、チームメイトたちも落ち着かない様子で居る。

そうとは言いつつ、後輩にヤジを飛ばし続ける。

今まで一緒に居た場所、そして仲間たちとの親近感。

そして、何より自分の中に感じるものは、嫉妬だ。

組織というものは、世代を交代しただけで、色が変わってしまう。

俺たちの居場所は、そこに在るようで無い。

そこは、今までと同じ場所であるらしいのだが、もう何かが違うのだ。

もう、そこに居られない。

酸素を思いきり取り込み、胸の辺りの奥深くで引き篭もっている靄を、鼻からゆっくりと押し出す。

何気なく青空を見上げると、後方から足音が聞こえた。

俺は、すばやく振り返る。

ああ、案の定だ。

俺の背後には、歩く深海魚の君の姿があった。
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