お茶にしましょうか

□Scene 11
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江波くんは、考えておられました。

彼の目線はある一点から動かずして、表情は険しいままでした。

マネージャーの彼女は、江波くんに自分で考えさせるため、と言ってしばらく彼を放置しておりました。

しかし、とうとう痺れを切らし、彼女は再び前のめりになり、教えだしたのです。

やはり彼女は優しい、良い方です。

勉強も出来てしまい、気が利く、素敵な女性であると私は思います。

そして、やはり彼女は江波くんにぴったりです。

これは、私の嫉妬などでは決してありません。

自身でもよくわかりませんが、何故か、素直にそう思うことが出来るのです。

これを彼女に聞こえるように言ってしまうと、私の身が危険に晒されるのでしょうけれど。

何となく、江波くんが苦戦している問題が気になってしまいました。

睨み合う距離のお二人に近づき、同じように覗き込んでみたのです。



「どのような問題をされているのですか?」



私がそう問いた瞬間に、江波くんはもの凄い勢いで、椅子に背もたれまでのけ反られてしまいました。

そして、それにも構わず、マネージャーの彼女は毎度のように、私に少しばかり厳しめの言葉で物申しました。



「今のあなたじゃ、無理ですよ。」

「ええ、ですから、未来の予習になるかと思いまして。」

「まずは、あなた相応なものを頑張ってください。」

「はい、頑張ります!」



彼女から応援されてしまい、嬉しくなりました。

そのようなことの次に、気になっていたことが一つありました。

先程の、江波くんです。

マネージャーの彼女が近づいても何ともない様子でしたのに、私が覗き込むと、避けられてしまいました。

それがまた、私の胸を締めつけるのです。

目を逸らされるのは、照れてらっしゃる証拠だと思えるのですが、避けられてしまっては流石の私でも傷付いてしまします。

先程から相変わらず、同じ問題に苦戦し続けている江波くんに向かって、マネージャーの彼女が警告するようにおっしゃいました。



「しかし、あんた。そんなんじゃ希望している就職先に行けないわよ。」

「そんなこと知っている。このままじゃ駄目だから、こうして勉強しているんだろ。」



ここで私は思い知らされたのです。

彼らがあと少しもすれば卒業される、ということをたった今、思い知らされたのでした。

何処からともなく、寂しさが込み上げて仕様がありませんでした。

この方たちと居るのは、嫌なことを忘れられる程、楽しい時間であるのです。

しかし、その方たちが居なくなるという必然の事実が、寂しくて私には堪らなかったのです。







Scene 11 深海魚、混入につき
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