お茶にしましょうか

□Scene 11
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時は既に、放課後であります。

私はこの後、部活動を行うべく、音楽室へ向かう予定であります。

しかし、その前に行かなければならない場所がありました。

突然に呼び出されたのです。

いいえ、今日は職員室ではありません。

今日は「生徒指導室」でした。

さて、私が一体、何を仕出かしてしまったというのでしょう。

心当たりは、全くございません。

「生徒指導室」と書かれた札のある扉の前に辿り着くと、私はノックを3度いたしました。



「どうぞ。」

「萩原です。失礼いたします。」



ノックをした後、返事をくださったのは、女性でした。

扉を開くと、返事をくださったであろう女性が、使用していたノートパソコンの前から立ち上がり、こちらに向かってこられました。

その方は、音楽を担当してみえる先生でした。

背が低めの、少しばかりふくよかな方です。

入口に置かれた教材を入れるための棚、人にとってちょうど良い高さの棚に手をつくと、体をやや傾けました。

すると、先生は一度、可愛らしく笑ったと思えば、私に問われました。



「何故呼ばれたのか、わかる?」

「申し訳ありません。全く心当たりが思い当たらないのです。」

「うん、あなたはいつだって、一生懸命だものね。それで、あなた、よく廊下を走っているわよね。」



突然の先生の発言に驚いて、動揺してしまいました。

いわゆる私はぎょっ、としてしまったのです。

私のことをよく、ご覧になってらっしゃいます。



「音楽に熱心なのは、とても良いことだけれど、怪我をしてしまっては危ないわ。もっと気を付けてね。」

「はい、気を付けます。」



少し元気を失くし、弱々しくなってしまった私に、先生はさらに続けました。



「あと、音楽室の使用の件なのだけどね…部員はどのくらい集まった?」



先生は私の顔色を窺う様に、尋ねてくださいました。

私はそのような先生にこれ以上気を遣っていただかない様、できるだけの笑顔を作ってお応えします。



「残念ながら、未だ0人です。」

「…そう。」



先生の言葉の数が、徐々に減りだしてゆきます。

そう思ったのも、つかの間でした。



「あのね。非常に言いにくい事なのだけれど、そろそろ正式に用紙で登録してもらわないといけないわ。そのためにも、部員を最低でも3人集めないと…
いつまでも学校に無断で、音楽室を貸し続けるわけにもいかないの。」



もうあらゆる人々から同じ台詞を受け、私の耳にはタコができそうな程でした。

私自身でも、わかり切ってはいるのです。

しかし、人が集まらないのが、現状であります。

わかってはおりましたが、あまりの辛さに思わず、胸を塞いでしまいそうになりました。

そして、さらに先生から追い打ちをかけられてしまいました。



「ごめんなさいね。わかって頂戴。」



ええ、きっと、きっと大丈夫です。

私は平気です。
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