お茶にしましょうか

□Scene 9
1ページ/3ページ




準決勝 2−1
9回裏 2アウト 1・2塁

うちは前者だ。

うちの野球部といえば大体、毎年二回戦目で詰まってしまうことが定番だった。

だが今は、あと一つ。

あと一つ、アウトさえとれば―

初めての状況に誰もが皆、すがるような想いでいた。

あと一つアウトをとれば、決勝戦なのだ。

内心では皆、興奮しているのだと思う。

メンバーの調子もモチベーションも、見るからに好調だ。

ただでさえ、今の時点でベスト4入りしている。

本来ならば、常連校の名が4つ並んでいるはずだった。

それなのに、ほぼ無名であるうちの学校名がそこに並んでいる。

夢の中で見る夢にも思っていなかった。

新聞にある高校野球の頁なんかでは、うちの学校は「ダークホース」呼ばわりだ。

このような結果を呼び寄せている理由とは、何か。

もともと打ちの打線は、積極的な者が多い。

いや、それもあるが結局、最後には自滅してしまう、いつもそんなものだった。

それよりも、こちらに注目するべきだろう。

たった一人の3年生投手だ。

1年生の頃から、共に朝晩と練習に励んできたが、彼の成長はチームの中でも著しかった。

入部当初、彼の投げるストレートは120km/秒とちょっと、というものだった。

それが今では、130km/秒を余裕で超える。

常連校にとって130km/秒超えることくらいは、当たり前のことなのだろう。

しかし、うちには全学年を合わせて、この3年生ただ一人しかいない。

非常に、貴重な存在なのだ。

彼は、本当に努力家だ。

俺が一番、見習わなければならない。



『信じていったって、駄目なものは駄目に決まっている』



過去に深海魚の君に向って、そう吐いてしまったことがあった。

しかし、そのような俺に彼女は呆れず、真剣に俺を諭してくれた。

それに加えて、だ。

これほどまでに身近なチームメイトから、実例を学んでいる。

人は人を、見限ることがよくある。

しかし、努力という者は人を、見限ることはない。

周りに存在する人たちから学び、俺が辿り着いた結論だ。

結論などといわずとも皆、わかりきっていることだろう。

だからこそ、皆が努力した自身よりも下回らない様、必死になれるのだ、俺も。



「落ち着いてな!」

「バッター集中っ!!」

「ひとつずつ、一つずついこう!」

「バックは任せろぉ!!」



セカンドを守る我らが主将が、先頭を切れば、それに続いて順に声かけを始めた。

俺もそれに続く。



「打たせてこい!」



俺の立つこの位置から、努力家なピッチャーへまで届けばいい。

そして、後になって気がついたが「打たせてこい!」とは、俺にしては随分、出過ぎたことを叫んでしまったものだ。

俺という奴は、高校で野球生活を2年半送ってきて、まさかとは思うが、今頃になってから変化が出てきたのだろうか。

それとも、もう一人の努力家の影響だろうか。

ふと頭に、彼女の顔が浮かんだ。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ