お茶にしましょうか

□Scene 7
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改めて、深海魚の君に焦点を合わせると、俺の思う斜め上をいった。

閉ざされていたはずの黒いケースは、いつの間にか口を開けている。

そして、彼女の手には金色で、まるで蛇か何かが体をくねらしたような形のものがあった。

それは、楽器であるらしい。



「そのサックスが、あなたの愛人だと?」



そう言ったマネージャーは、呆れた様子で紅茶を飲み干す。



「ええ!幼いころから、ずっと一緒なのですもの。」



深海魚の君は、満面の笑みで答える。

これらの事実を知った俺は、肩の力が一気に抜けた。

とても安堵した。

なぜなら、相手は楽器だったのだ。

ぶん殴られることも、けんかになることも楽器が相手ならば、決してない。

今の今まで、気を張っていた俺が、突然恥ずかしくなり項垂れた。

そんな様子の俺を見て、深海魚の君は、恥ずかしそうに微笑んだ。

そして、そのサックスと言うらしい楽器を、きつく抱きしめていた。

真実は、こうだ。

深海魚の君は、常に俺の斜め上を行く。

吹奏楽部自体は、やはりこの学校には存在してはいない。

深海魚の君の愛人とは、手足の生えた人間などではなかった。

そして、何だ。この敗北感は。

苺の甘酸っぱい香りが、項垂れている俺を慰める。

どうか、お構いなく。

何故だか、俺は泣きそうだ。






Scene 7 苺の慰め
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