お茶にしましょうか

□Scene 6
1ページ/4ページ




勝ち目の見えない恋敵が現れました。

こちらに勝機など、微塵もありません。

休み時間の廊下で、江波くんをあんなにも幸せそうに、はにかませることが出来る様な女性なのですから。

彼ったら、私の前ではいつも必ず、一度ぎょっとしてみせて、唇を噛み締めてみえるのです。

きっと私と彼女では、天と地の差なのでしょう。

暖かい陽射しが差し込む窓辺にて、私は珍しい程に、悲観的になっておりました。

先日、部活動からの帰路についた時に偶然、野球部のマネージャーである彼女に再び出会ったのです。

そして、私は一人で片付けをする彼女を手伝っていたのでした。



『野球部に江波くんという方がいらっしゃいますよね。ご存知でいらっしゃいますか。』

『ええ、幼なじみですが。』



まず、ここで私は言葉を失ってしまいました。

江波くんとの関係を尋ねましたが、幼なじみでマネージャーということは、間違いなくそういうことです。

私は、そう確信いたしました。

そして、その後の彼女の言葉には、気を失ってしまいそうでした。



『まさかとは思いますが…あれと私のことが気になりますか。』



それはもう、図星でありました。

それに加えて、彼のことを「あれ」などと平気で言えてしまえるのです。

相当なやり手でいらっしゃるのだろう、と思いました。

会話の中に溢れた言葉の数々が重りとなって、胸に溜まってゆきます。

江波くん。

貴方は、普段はあまり喋ろうとはしませんが、嬉しそうに挨拶してくださるのは、私だけではなかったのですね。

女性を相手にするというだけで、極度に緊張してしまう、本当にそれだけだったのですね。

少し悲しくなりました。

少し貴方の特別になれているやもしれない、そんな風に自惚れていた私が恥ずかしくなりました。

考えるだけで、私の目には熱いものが込み上げてくるのです。

感情があっちへこっちへしており、一向に落ち着くことは出来そうもありませんでした。

私は平静を装うためには、彼女の問う質問にはっきりと明確に返すしかない、と思いました。

そう思い、構えた時には次の彼女の言葉がやってきました。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ