お茶にしましょうか

□Scene 3
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バレンタインか何かのイベントが有るというわけでもないのに、男性に手作りの物をプレゼントしてしまいました。

私はどんな時でも、直感に身を任せます。

今回、どうしてその様な行動を起こしてしまったのか。

それは、ただただ単純なことです。

私はどうやら江波くんに夢中になってしまった様なのでした。

保健室の一件から、つまり最初からだった様です。

少し前までなら、存在すら知らなかったはずだというのに、今では姿を見つける度、考えるだけで胸が高鳴るのです。

この気持ちを伝えてみたい、細やかながらも思うのでした。

そして、昼休みの中庭で手作りの抹茶クッキーを贈った次第にございます。

受け取る時、彼は真っ赤な顔をしていましたから、大層な照れ屋なのだろう、と思いました。

初めて保健室で出会った時から、それもわかりきったことではありましたが。

ほんの少しでも親しくなることができた暁に、お名前と野球でのポジションを聞き出すことにも成功いたしました。

ということで、そんな彼を応援すべく、斯くして今、野球グランドの前におります。

只今、試合観戦中でございます。

これは、吹奏楽部の野外練習を兼ねてのものです。

今日は土曜日。

他校との練習試合らしいのです。

先日、風のうわさを聞き付けました。

そしてたった今、我が校が「守り」の最中なのです。

私の目線は決まってレフトへ、そう、私の目的は江波くんです。

その時でした。

バッターがちょうど、江波くんの頭上高くに打ち上げたのです。

彼は位置を予測し、微調整を繰り返しては、ボールが落ちてくるのを待っていました。

しかし、その白い球体はわずかな差で彼の手前に落ち、地面にて大きく跳ねたのでした。

原因は、彼にとっての追い風でした。
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