お茶にしましょうか

□Scene 2
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「あ、ああ…」



ぎこちなく返事をしながら、こちらからも手を差し延べ、それを受け取った。



「ありがとうございます…!」



そして、失礼します、と陽気に駆けて行った。

彼女が去った途端に、今まで静かにしていた仲間たちが突然、騒ぎ出した。



「お前、一体どういうことだよ!説明しろや、おい!!」

「ふーん、江波も、すみにおけないねぇ。」

「おまっ、女子から応援させてください…って、羨まし過ぎるぜ…」

「例え、相手が深海魚だったとしてもっ!」



俺を一人、皆で囲む形で、次々に囃し立てる。

女子からいきなり意味ありげな包みを渡され、応援したい、などはきっと男である限り、俺でさえ少しは自惚れる。

だが、逆に考えてみれば、空想の世界で多く見られるこのパターンは、罠である可能性もある。

あの眉間のこぶは、怨まれて当然だ。

しかし、これが心の底からの厚意であった場合には、失礼極まりない思考となる。

彼女は、まともに目を合わすことも出来ない俺に、あんなにも柔らかい笑みを見せてくれたのだ。

ここは、感謝の気持ちで素直に受け取ろう、そう思った。

包みの中身を触った感触では、どうやら食い物であるらしい。

堅めの何かがいくつか入っている様で、クッキーかもしれない、と推測した。



「で、それ何なんだよ。」



急かされ、包みを開くと、予想した通りのものが入っていた。

形が少し歪であり、焼け具合などを見たところでは、手作りの様だった。

わざわざ作ってもらったのか、と申し訳のない気持ちになった。

同時に、これを一人で食べることは恐れ多い、とも感じた。



「み、みんな…」



共に夏を過ごしてきた仲間、そしてこれからも、だ。

この応援は、俺だけへのものではない。

俺へ向けてくれた、ということはチームへの応援だ。

このクッキーは、皆で分け合うものだ。

有り難く分け合わなければならないはずだ。



「よかったら、みんなで食わないか?」

「え、いいの?」

「あの子は、お前に…」

「いや…そんなわけは無い、と思う。…よかったら、だが、み、みんなで…」



俺へ、ということは、皆もだ。

そこまで言うなら、と仲間たちは素直に受け取る。

そして、クッキーが各々へと行き渡り、各々の感謝の気持ちを感じながら、一斉に口へ運んだ。

こんな展開を一体、誰が予想していただろう。

そのクッキーは、ひどく濁った深い緑色の、ひどく苦いものだったのだ。

皆、地面にて悶え苦しんでいる。

やはり罠であった様だ。

やはり、怨まれている俺は、どうしたらいいのだろうか。

この際、許されなくともいい。

ただ、仲間たちよ、怨まないでほしい。

同じく地べたに這いつくばっていた俺の後ろに、多くの影が覆いかぶさるのが、よく見える。

嗚呼、俺はなんて罪深い奴なのだろう。






Scene 2 駆ける深海魚
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