お茶にしましょうか

□Scene 1
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―目が覚めると、私の視界には白い天井だけが見えました。

どうやら私は、保健室にいる様でした。

きっと長時間、眠っていたために、体の怠さを感じ、静かに伸びをいたしました。

全てがあやふやだった、その時でした。



「あっ…」



不意にその声が聞こえた方へ視線を動かせば、そこにはカーテンから顔を覗かせている長身の男子が、一人いたのです。

彼は野球をしている様な格好をして、帽子を深くかぶっておりました。

未だそこから動こうともせず、立ち尽くしている彼になるべく、やさしい声色で問いました。



「あなたは?」

「あ…すみません…」
 
「謝らなくたって、いいんですよ。」

「あ、はい、すみません…」



どうしたことか、こちらが話しかけると謝罪を返されるのです。

顔も俯き気味でよく見えませんでしたが、きっと初対面なのだろう、そう思いました。



「あの…打(ぶ)つけたの、俺です。」

「はい?」

「ぼ、ボール打つけたのはお、俺です。すみませんでした…」



そう言って、帽子を取り、もともと俯いていた頭を、さらに深く下げてくださったのです。

そういえば、私は保健室で眠る前には音楽室にいたはずでした。

私は吹奏楽部ですので、いつも通りの基礎練習を始めた頃でした。

広い音楽室でただ一人、自慢の楽器を気持ちよく鳴らしていたはずだったのです。

それなのに、白い何かが私の顔面に直撃し、何やらいい音を鳴らしたのでした。

その後の記憶は何一つ残っておりません。

私はたった今、それを思い出したのでした。

そして、わかりました。

まず、白い何かはボールであったということ。

私に打つけたボールを投げたのは、この律儀そうな野球をする姿の男子生徒であったこと。

被害に遭った時には、少し痛い思いをいたしましたが、こんなに必死に謝ってくださるのです。

許したい気持ちになりました。



「大丈夫ですよ。何処も怪我なんてしてませんから。」

「え…」



不意に上がった顔をみれば、大層驚いている様でした。

そして、さらによく見ると、彼は端麗な顔の持ち主だったのです。

どうりで坊主頭がよく似合っている、と不覚にも判断した私なのでした。
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