お茶にしましょうか

□Last Scene
1ページ/6ページ




「何だと?!先手を打たれた上に、失敗しただあ?」

「やっぱり情けないね、江波は。」

「たくっ!何で言わなかったんだよ。後悔しても知らねーぞ。」



ああ、空が青い。

これ程に天候が良ければ、絶好のドライヴ日和だ。

俺はこのようなことを言っているが、今いる場所は、ファーストフード店の室内である。

学校が休みの今、自動車学校に通っていた。

その自動車学校の道路の向かいに位置している、ここで昼食をとっているところであった。

ガラス張りの窓際の席に座り、チームメイト兼友人と横一列でハンバーガーを頬張る。

しかし、本当に今日は天気が良い。

このような天気の良い日だというのに、たった今は皆から責められているところだった。



「で?先手を打たれたってことは、逆に告白されたってことでしょ。江波は何て返事したの?」

「なんか…うやむやな感じに…」

「阿保だなー、お前。」

「うっ。どうせ阿保だよ、俺は。」



俺がここまでぼろくそに言われる筋合いは、残念ながら、ある。

3学期の始業式のあの日、萩原さんに一緒に帰ろう、と誘った。

見事にそこまでは、成功だったはずなのだ。

しかも、彼女の練習にも立ち会うことが出来た。

彼女の奏でる音を聴いている時と言うのは、一服できる時間でもある。

そもそも彼女を誘ったのには、成り行きがあったのだ。






時は戻り、丁度あの日のことだ。

始業式が終わり、俺は教室で帰宅の準備をしていた。



「江波、悪い!今日は彼女と帰る約束してるから、先行くわ。また車校でな!」

「おう、またな。」



チーム内でも数少ない、彼女持ちの友人にそう声をかけられる。

そいつはそう言った後、教室の出入り口の前で待っていた女生徒の元へ、笑顔で駆け寄っていく。

幸福そうなことで、何よりだ。

少しそいつを目で追った後、机の上に在る筆箱に手を伸ばす。

手を伸ばした先に、幾人かの気配が、俺の前に迫っているのがわかった。

顔を徐々に上げていくと、よく知るチームメイト兼友人らの姿があった。



「あ。あいつは、彼女と帰るって…」

「あっそ。江波は?」

「俺?俺はもう帰れる。待たせて悪かったな。」



毒の舌を持つことでお馴染の奴が「違うって。で、江波は?」と繰り返し言う。

そして、じわじわと俺に詰め寄ってきた。

すると、他のもう一人が口を開く。



「大丈夫かよ。」

「な、何がだよ…」

「傍から見てると、お前、深海魚に首ったけだったじゃねえか。」

「なっ、何言って…!」

「いつも、まるわかりだったよ?」


意地悪く笑いながら、そのようなことを言う。

そこで俺は初めて、今まで自覚無しに恥ずかしい姿を曝していたことを知った。

思わず、顔が一度に熱くなる。

しばらく俺は、片手で顔を覆っていた。

その時、友人の1人が冷静にこう言う。



「どうすんだよ。もう深海魚と会えんのは、卒業式だけだぞ。」



確かにその通りだ。

しかし、俺が言いたいのは、だからどうしたら良いのか。

それが俺には、わからない。

俺は、黙りこくっていた。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ