お茶にしましょうか

□Scene 17
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「おい、そんな言い方は無いだろ。」



その場の空気が、突然に変わったようでした。

その台詞を言った声は、いつもより低く、静かでした。

そして、その声の主は、江波くんだったのです。

今日はマネージャーの彼女の表情は、いつもと変わらずとも、びくついてらっしゃいました。

まるで、普段のお二人が逆転しているようでした。

中身が入れ替わっているのでは、そのようなことを思ってしまう程に、です。



「お前、この前の萩原さんの演奏を聴いて、萩原さん自身にも、感心していたじゃないか。熱心で努力家なんだな、って言っていたじゃないか。俺は、確かに聞いたぞ。」

「そうよ…言ったわよ…」



口を覆っていた彼女の手は、いつの間にか拳にへと、変わっておりました。

彼女は、声を大きくして、おっしゃったのです。

そして、その声はやはり震えていました。



「だから、この子を勧誘しているんでしょう…!あんた達の、野球部の未来のために…!」



己の使命を果たすため、その熱い想いがよく伝わってまいりました。

その想いは、私にまで伝染してきそうです。



「何だよ、あんた達って…姐さんだって、マネージャーだって部の一員だろ。」



やはり、マネージャーの彼女は、とても素晴らしい方だと思います。

やはり、私ではその役は務まりません。

他に、適任者がいらっしゃるはずなのです。

しかし、私を仲間に入れようとしてくださったことを、心より嬉しく想いました。

ただ、感謝の一言です。



「先ほどは、容易にお返事してしまい、申し訳ありませんでした。お誘いくださって、ありがとうございます。必ず、一度考えておきますね。」

「こちらこそ…心ないこと言ってしまって、ごめんなさい。是非、考えて、ください。お願いします。」



マネージャーの彼女は、頭を深々と下げられました。

考えてもいなかったので、私は惑ってしまいました。



「そ、そんな、やめてください…!お顔を上げてください…!」



私は、大それた人物などでは、決してありません。

何と申し上げても、お顔を上げてくださらない彼女の周りを行き来しては、私は何時までもまごついていました。

本日の昼休みは、練習が出来ずじまいでした。

そして、日々変わりゆくことを感じます。

私の、人の心もこれ程に、変わるものなのですね。

実に素敵だと、私は思います。






Scene 17 変わりゆく根源
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