お茶にしましょうか

□Scene 16
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未だ泣き止みそうにない彼女を見て、俺も未だ落ち着かずにいた。

いや、正確には、彼女は泣いているのだが、泣いてはいない。

微笑んではいるのだが、未だに瞳が潤んでいる。

俺には、どうすることも出来はしない。

ただ、声をかける以外の方法が、思い当たらないのだ。

声をかけることしか。



「あの…、本当にみんな、盛り上がっていましたよ。俺は…まだ聴いていたかったです。」



俺がそう言うと、泣き顔を隠すように俯きながら、頭を何度も下げてくれる。

やはり、俺ではどうしようもないのか。

すると、彼女は小さく震えたような声で、確かにこう言ったのだ。



「ありがとうございます。江波くんにそう言っていただけると、挑戦して良かった、と心から思えます。」



その後、彼女は自らで、その涙を拭い、しっかりと笑ってくれた。



「初お披露目…大成功、おめでとうございます。」



自分でもなぜ今、これを言っているのかわからなかったが、そのようなことはもう、どうであろうと良いのだ。

彼女が心から笑ってくれれば、もうそれだけで十分なのだ。

俺は彼女に、もっと笑ってほしいと思った。

彼女にリョウさん以外に好きな人が居ようとも、今の俺には関係ない。

こうして、俺の後をついてきてくれた時点で今は、彼女を楽しませるのは、俺の役目だ。

今回ばかりは、見知らぬ他人のことなど、気にするものか。



「あ、あのですね…マネージャーの組が、お化け屋敷をしているんですよ。よかったら、行きますか?」

「お、お化け屋敷、ですか…?」



これは新しい表情だ。

萩原さんは、困ったように微笑んでいる。

なるほど、苦手なのだな、それがよくわかった。

しかし、お化け屋敷とは言っても所詮、素人の作ったものだ。

気を失うほども、恐くはないだろう。

そして、大きな声を出すのも、日頃の気分転換になるのではないか、と俺は思っていた。

すると、彼女が二度目を尋ねた。



「お化け屋敷とは…あのお化け屋敷ですか…?」

「はい。行きますか?」



萩原さんは、未だ悩んでいる。

座っていても座高の差があるため、萩原さんはゆっくりと俺を見上げた。

それは恐る恐ると、だった。

そして、こう尋ねられたのだ。



「…江波くんも、一緒に入ってくださいますか?」

「もちろん。」



何故だ?今日はやけに、彼女が愛らしく見えてしまう。

俺が、祭の効果に魅了されているだけなのか?

自然と気持ちが昂る。



「…江波くんが傍に居てくださるのなら、私、頑張ります。」



本当に苦手なのだろう。

軽い罪悪感が、今更になって訪れる。

しかし、女子に頼られているのだ。

男にとって、この上ない喜びである。

さらにこの後、彼女の新しい一面を見ることが出来るのだ。

たった今は楽しすぎて、経過した時間すらもわからない。

やはり、俺はまだまだ、持ち場に戻れそうにない。






Scene 16 二日掛かりの御祭騒ぎ〜2日目〜
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