お茶にしましょうか
□Scene 16
1ページ/4ページ
「焼き鳥、いかがですかー!」
「クレープでーす!おいしいですよ!!」
「綿菓子、作っていきませんかぁ!」
ここらでは、売り上げ競争が行われている。
今日は、文化祭の2日目だ。
学内の全てが、模擬店と生徒、一般客とで溢れている。
俺たちの組の模擬店も、そのうちの一つであるのだ。
「そこのお姉ちゃんら!そう!そこの別嬪さん!たこ焼きやで!形、歪やけど、めっちゃ旨いから!450円やで!寄っててぇやぁー!!あっ、ちょっとぉ!」
「五月蝿ぇよ!!」
「五月蝿ぇは、ねぇだろ!お前等が『唯一、関西圏出身のお前が宣伝係しろ』っ言(つ)ったんだろ!俺、そもそも大阪出身じゃねえのに!本場の方、聞いてたら、シバかれるわ!」
「はいはい。休め、とは言ってないよ。落ち着けって言ったの。」
「めっちゃ厳しいやん!」
うちの組のたこ焼き屋は、いつも通りの野球部の乗りで成り立っていた。
俺ともう一人、よく叫ぶ奴でたこ焼きを焼き、転がし続けている。
「しっかし、たこ焼き、小さなパックに6個しか入ってなくて、450円は高ぇよ。」
「本当だよ。誰だ、価格設定したの。こんなの売れるわけ―
「あの、すみません。」
チームメイト兼友人たちが愚痴を吐いていた時、一人の女生徒が店口にやってきたのだ。
『はい!らっしゃーせー!』
「これで、たこ焼き一つください。」
『はい!ありがとうございまぁーす!』
うちの野球部の特徴は、大体2つに分かれる。
一つは、女慣れしておらず、意思表示することなどを躊躇い、落ち着かなくなる奴。
つまりは、俺のような奴のことを云う。
もう一つは、女慣れしておらず、調子に乗って、浮かれる奴だ。
会計を担当しているのは、丁度、後者の2人組だ。
今のこの時間帯に来てしまった女生徒に、俺は少し同情しつつ、たこ焼きをひっくり返す。
「もう少しだけ、待っててねぇ。」
こちらから見ていても、気分を害する程にやけている二人が、金券を受け取る。
そして、2人は女生徒の手元から、徐々に目線を上げていく。
その女生徒の顔は、誰もがよく見知ったものだった。
『って、深海魚かよ!』
2人は、仲良く声を揃え、叫ぶ。
俺は2人に軽く怒りを覚え、使っていた千枚通しを奴等に向かって、振りかぶろうとした。
「ご、ごめん!ごめんってば!江波!!」
「やめて!狙わないで!!」
「まあ!江波くんが焼いてくださるのですね。とても楽しみです!」
阿保共の隙間から覗く萩原さんの笑顔に、俺は射貫かれてしまった。
もしかして、俺は彼女に惹かれつつあるのか?
駄目だ、萩原さんには、あのリョウさん以上に愛しいと思う人がいるのだ。
彼女から昨日、そう言われてしまった。
例え、俺の気持ちが彼女に惹かれていたとしても、俺なんかが邪魔することは、出来ないのだ。
すると、チーム内でよく毒を吐くことで有名なあいつが、裏方の仕事を止め、前に出ていく。
「深海ぎょ…じゃなかった。萩原さん、だよね?」
「…ええ。」
あいつが、一瞬だけ俺を見た。
何をするつもりだ。
非常に情けない事だが、俺はあいつには逆らうことが出来ない。
このまま、見守るしかないのか。
「昨日の有志ステージ、格好良かったよ。」
「あ、あら…ありがとうございます。照れてしまいますね。」
彼女は、頬を赤らめている。