お茶にしましょうか
□Scene 15
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「…お願い。何か、言って…」
その時でした。
「…今日は、どうしたんですか?」
なんとリョウさんが、声を発したのです。
確かに望んだのは、私でした。
しかし、驚きのあまり、リョウさんを見つめ、静止してしまいました。
しかし、私は少し嬉しかったのです。
リョウさんと話せる日が来るだなんて、思ってもいませんでした。
「私、浮気をしてしまいそうです。」
「う、浮気?!そ、それは、一体どういう意味で…」
「好きという気持ちがあまりにも強すぎて…
愛しいと思う人が出来てしまいました。ずっと前から。」
「そ、そうだったんですか…」
「ええ。ごめんなさい…」
リョウさんへの罪悪感と、江波くんへのどうしようもない想いにもう、涙が堪えられません。
「いや、俺は…き、気にしません。気にしませんよ。あなたの思う幸福に従ってください。俺では、何とも言えません、から。」
何故、彼はこれ程にも優しいのでしょう。
思い描いた通りの、理想の方でした。
私は、リョウさんをそっと、抱きしめました。
今まで共にしてくれた、感謝の意を込めて。
そして、これからも私の傍に居てくれることを願って。
その時、ガタッと私の背後で、何やら音がいたしました。
振り返ると、そこには江波くんが居たのです。
江波くんは私に背を向けて、机に手をついていたのです。
それは、とても不思議な体勢でした。
「まあ、江波くん!どうして、こちらに?」
「え?…あ、えっと…
い、今、15分間の休憩時間なので。」
「あら、そうだったのですね。」
「はい。あ、あの…お疲れ様でした。大成功でしたね。…とにかく圧倒されました。」
「ありがとうございます。ここまで踏み出せたのも、江波くんのおかげです。」
「いや、俺は別に何も…」
やはり江波くんは、謙虚におっしゃるのです。
すると、江波くんは、私の方に向けて、指差したのです。
その指の先が指しているものを辿ると、それは私の一番近い机に置いてありました。
そこにあったものは、たこ焼の前売り券でした。
「クラスの奴等に渡してこい、と命令され…いや、配り歩いてこい、と言われたんで…
よかったら、買いに来てください。」
「ありがとうございます!是非、貢献させていただきます。おいくらですか?」
私は自身の机にかけてあった、スクールバックから、小さな小銭入れを取り出しました。
しかし、江波くんは首を振られたのです。
「お代は結構です。初御披露目の…お祝いです。」
そう言って、軽く会釈すると、江波くんは駆け足で去っていきました。
お祝いまでいただけて、今日は本当に嬉尽くしの一日です。
それにしても、一つだけ、疑問に感じたことがございました。
江波くんは、出入口付近で可笑しな体勢をしていらっしゃったはずですのに、何故、私に一番近い場所にたこ焼の券を置けたのでしょう。
私は、それだけが不思議でなりませんでした。
Scene 15 二日掛かりの御祭騒ぎ〜1日目〜