内実コンブリオ

□第2章*咲宮side 前編
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いろいろ中途半端な感じで写生大会は終わった。

作品も未だ仕上がっていないし、結局3日間はアイス、アイスで終わっていったし。

でも、やっぱり先輩方といるのは本当に楽しい。

美術館鑑賞、七宝焼作り、陶芸に夏の3時間耐久地獄デッサン。

順調に部活の行事も進み、8月になり、美術部の夏休みがやって来る。

うちの美術部の夏の活動は7月まで。

だから、8月からの予定は真っさら。

あぁ、部活は楽しかったな。

もっと先輩方と一緒にいたかったけど、家でしなくちゃならない事もあるから仕方ない。

次はお盆ね。

家のお手伝い、片付け、準備が待っている。

8月13日までに、部屋の片付けをして、お仏壇のおみがきをして…

それだけだったら、簡単やんか。て思った人、手を挙げて!

こんなけでも、できたもんじゃないわよ。

自分の家は田舎で母屋と離れがある。

全体的に日本の古き建物って感じ。

で、お盆になると、地域のお坊さんが地域全ての家にお経をあげにまわるの。

部屋は大体18畳くらい。

お仏壇もうちのおじいちゃんが、


「一番大きくて立派なものなんやぞ!」



とよく力説してくれる。

大きいからこそ、おみがきは大変。

うちの家族4人でしても、はやくて半日かかる。

そんだけ苦労したのに、お経は5分で終わる。

でも、お楽しみはそのあと。

お正月とお盆は、親戚が5家族揃い、大宴会。

自分はこの、年に2回あるか無いかの大宴会が、楽しみの一つだ。



「はなちゃーん、酒持ってこーい!」

「呑みすぎちゃいますかぁ?」

「ほんまにな」


「海老いただきまーす」

「どうぞ、もっと食べてってぇな」

「じゃっ、特上マグロとうに。ごち」

「えらっそうやなー」


「お前の仕事場最近どうなん?」

「あ、聞いてくれる、兄さん?!うちの課長!あいつがなー」


「ほんなら、わしもう寝るわ」

「えー、おじいさん、もう寝るんー?」

「明日も朝早いがや」

「じいさん、田と畑の世話、せなあかんもんな」

「あぁ」



どんちゃん、どんちゃん。

お祭り騒ぎは、夜遅くまで続く。

そして、その夜は決まって、いとこのお姉さんが泊まっていってくれる。

朝方5時まで、布団の中でおしゃべり。

次の日は、お墓参りに行ったり、少しでも多く遊べる様に朝7時半起き。

それが2夜連続で続く。

楽しくってしかたがない。

中学生になってまで、子供っぽい?

いいんです、子供だもの!



いとこのお姉さんも帰って、ぐったり遊び疲れた翌日の暑苦しい午前10時。

電話の弾けそうなくらい元気なベルが鳴り響く。


「華ちゃん、今日うち来る?」

「ええの?!行く!」



もちろん、即答。

行かないわけがない。



「ばあちゃんが手料理ふるいたいって、言っとんのやけど」



電話の声の主は、おばさん。

正しくは、お母さんの妹さん。

更に詳しく、名前は幸子さん。

だから、自分はものごころ付いた頃から、「ゆきちゃん」と、呼んでいる。



「わかっとるやろうけど、泊まるよんなぁ?」

「ええの?!」



自分のテンションは上がりっぱなしで、お母さんの実家へ向かう。




午後2時。



「こんにちは」

「いらっしゃい、待っとったで!」

「お邪魔しまーす」



部屋に入れば、後は大人の話し。

お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんもゆきちゃんもみんなは笑ってるけど、自分は聞いていても、話しが難しくわからない。

わからないので、一人折り紙を折っていた。



「華ちゃん、学校はどうや?」

「うーん。…いろいろあるけど、楽しいよ。本当にいろいろやけど…」



自分は学校の事を言われるのは、あまり好かない。

聞かれると、胸のあたりが何だかモヤッとするから。



「そっか…。話したいと思う事は話して。嫌やったら、無理せんでええでな」



優しくそう言ってくれたゆきちゃんは、ニッコリと微笑んだ。



「明日、どっか行こか。どこに行くか考えといてぇ?」

「うん、ありがとう」





夕方、お父さんとお母さんは自分一人をおばあちゃんの家に残し、家へと帰ってゆく。



「じいやんが家で待っとんでさ。ありがとうな。華に食わせたってぇ」



そう言って帰っていった。





す、すごい…。

その夜のおばあちゃんの料理はまるで旅館の様なものだった。




翌日の朝になる。

外では、朝からあの有名な土地の牛乳屋さんのメロディーが流れている。



―もうそろそろ起きないと。



時刻は7時23分。

起きて、おばちゃんたちのいる部屋へ足を運ぶ。



「おはようございます」


「おはよう。むっちゃ眠そうやな」


「華ちゃんちは朝、パン?ご飯?」


「ご飯かな」


「わかった、朝ごはんちょっと待ってなー」


「あー、何から何まで悪いから手伝いますー!」


「えーよ、座っとんな」


「えー」


「えー、やないよ」







作ってもらった朝ご飯を食べている途中で、ゆきちゃんが話しかけてきた。



「決めた?どこ行くか」


「あの…あそこ!あそこ行きたいなて思て…!」
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