羊かぶり☆ベイベー
□Seven sheep
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何とかして、グッと堪える。
感情が沸き上がったことを覚られても、もうこの際構わない。
潤みかけた視界の中の、汐里の真剣な表情。
その表情に、心配や迷惑をかけてばかりで。
嫌なことから逃げて、後回しにしちゃならない。
それは物凄く勇気が要ることで、心への負担が大きい。
だけど、やっぱり、今までも分かりきっていたけれど、1つ1つ、丁寧に片付けないと。
それらの気掛かりからくる不安が、どんどん膨れ上がっていってしまうから。
相変わらず泣きそうな気持ちで、私は汐里に宣言する。
「今は、まだ頭がこんがらがって、どうしたら良いのか悩んでるけど……彼とのこと、ちゃんと答を出すね」
「うん」
「そうじゃないと、彼の時間も無駄にしちゃうもんね」
「……そう? みさおと一緒に居た時間を、私だったら、そんな風には思わないなぁ」
「……そうだと、良いな」
ユウくんがくれた、全ての始まりの告白。
私が何度も断った、デートのお誘い。
あの女の子が私を悪く言ったときに、庇ってくれたこと。
汐里の言葉から、いろんな彼の姿、数少ない記憶が戻ってくる。
そりゃ、彼から言われた台詞に、嫌だと感じることもあったけれど。
良い印象が多少なりとも残っているのは、彼と一緒に居る時間は、私にとっても決してゼロではなかったからだと思えた。
冷静になると、見えていなかったことが見えてくる気がした。
「まぁ、しばらく距離を置くのも、整理をする手段の1つになるんじゃない?」
汐里が落ち着いた口調で言った。
まさに、その通りだと思う。
今の私には。
「うん」
「あと、私が気になってるのは……」
汐里が突然、眉をひそめる。
「だからって、いきなりそのカウンセラーだっていうイケメンに靡いちゃ駄目だからね。まずは、ちゃんと彼を考えてあげること!」
「そ、そんなの! 当たり前でしょ!」
「そうやって、瞬時に返せるのなら、少しだけ安心した。さっき、みさお、濁った返事したから。そっちの方に、気持ちが揺れてるのかと思った」
「そんなこと、あっちゃいけないよ」
「え?」
「カウンセラーとクライアントは、あくまでその中でだけの関係だから。カウンセリング以外で詮索さるようなことは、ルール違反らしいから」
「……向こうが、そうやって言ってるんだ?」
そう言われ、思わず、どきりとした。
汐里はすかさず、迫る。
「今の時点でみさおには、少しでも、そのイケメンに気があるの?」
「き、きっと無いと……」
「最終には、はっきり出さないといけないよ、答を」
「分かってる」
「じゃないと、彼が報われないよ。みさおがどう思っていたとしても、今、みさおの彼氏は彼なんだから」
そう、本当にそうだ。
これから私が考えて、辿り着いた結果がどうであれ、逃げずに伝えないといけない。
今までも散々、そう自分に言い聞かせてきたけど。
今度こそ、実行しないと。
足踏みしている私に合わせてもらっていては、ユウくんにだって迷惑がかかる。
彼の人生は、私のものではないのだから。