羊かぶり☆ベイベー
□Seven sheep
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「ああ! 終わったぁ!」
すっかり人が減ったオフィスに、先輩の声が響いた。
時刻は、とっくに定時を過ぎている。
外は既に真っ暗だ。
すると、先輩が私の方へ椅子ごと体を向ける。
「伊勢さんは? どう? 終わりそう?」
「今、ちょうど終わりました。あと、確認するだけです」
「良かった! 本当にありがとうー」
先輩も気が抜けたのか、語尾が伸びている。
私も最後まで怠らず、じっくり見返し、抜けがないことを確認をした。
ラスト1枚の書類に目を通し、無事ミッションクリアだ。
「先輩! 終わりました」
「ごめんね。助かったわー。お礼に、またご飯でも何でも奢るからね」
「いえ。とんでもないです」
「他にやる事がなければ、早く帰りましょ」
そう言って、先輩は身の回りを片付け始める。
疲れきった私も、ゆっくり片付けを始めた。
鞄を開いたとき、スマホが目に入る。
そして、本日、何度目かも分からない忘れごとをまた思い出した。
「ああっ!」
「えっ、なに? どうしたの?」
「す、すみません。まだ私、やることがありました。先輩、気になさらず、先に上がってください」
「いいの? 何か手伝えることがあれば、手伝うよ」
「だ、大丈夫です。お気持ちだけ頂きます。ありがとうございます」
「そう? じゃあ……あんまり遅くなり過ぎないようにね」
「ありがとうございます。お疲れ様です」
お疲れ様、と返してくれた先輩は、未だに私を気遣ってくださりながら、ゆっくりとオフィスを出ていった。
そして、私はスマホ画面を立ち上げる。
1件の不在着信があった。
「吾妻さん……折り返しくれてたのに」
不在着信の画面から、また吾妻さんへこちらから掛け直し、廊下へ駆け足で出た。
しかし、またその相手に繋がることはなく、空しくも呼び出すのを止めた。
このまま帰ろうか、どうしようかとも悩んだ。
これは完全なる無断キャンセルだ。
吾妻さんにも、毎回いろんな準備などをしてもらっているのに。
それに、私がもっと早く事前に連絡出来ていれば、他にカウンセリングを受けたい人が、当日でも予約に入れたかもしれないのに。
非常に申し訳ない。
悩んだ挙げ句、駄目元である場所へ向かうことにした。