羊かぶり☆ベイベー
□Seven sheep
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お昼時間を終え、汐里とは別れた。
そこで、またハッと思い出す。
──吾妻さんに連絡しなきゃ。
慌てて、スマホを取り出した。
画面に映し出された、吾妻さんの電話番号にかける。
発信音がしばらく鳴る。
しかし、受話器が上がる気配が無い。
──他の人のカウンセリング、始まっちゃったかな?
しばらく待ってみても、吾妻さんが出ることはなかった。
タイミングが悪かったのだと、一旦、諦めて電話を切る。
また時間を置いてから、かけ直そう。
もしかしたら、折り返し電話をくれるかもしれないし。
そうして、デスクに戻り、午後の業務を開始する。
「伊勢さん」
「はい」
呼ばれた方を振り返ると、先輩が分厚い書類の束を抱えていた。
今、この状況を見て、察せない程、馬鹿ではない。
「伊勢さん、ごめん。1人の子が体調不良で、早退しちゃったの。申し訳ないんだけど、半分、手伝ってもらえない?」
「あ、はい。分かりました」
「本当にごめんね。明日の朝一で提出しないといけないらしくて」
ちょっと、待って。
結構な量がありますよ?
渋々、書類を受け取る。
今日中に終わらせられるとは、到底思えず、絶望するしかない。
お願いね、と去っていく先輩を見送って、また書類の山に向き直る。
とにかく自分の業務の中でも、今日までの期限付きの仕事を早く終わらせよう。
それ以外は、後回しだ。
全神経を頭と指先にやって、新たに与えられた誰かの業務を必死で片付けることに専念した。