羊かぶり☆ベイベー

□Three sheep
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彼の浮気現場を初めて目撃した日は、流石に冷静になれなくて、気持ちも完全に沈んでいた。

既に、進歩があったんだ。

──私、変われるかも。

突然に、自信が湧いてくる。



「長々と話してしまって、すみません」

「全く問題無いよ。そのための時間だから」

「ありがとうございます。改めて、相談っていうのは『素直になりたい』んです、私」

「なるほど。俺の印象では、みさおさんは素直そうに感じてはいるけど、そうではないのかな?」

「はい。いざ彼の前に行くと、素直にそれどころか、緊張して、あまり話も出来なくて……」

「そうなんだ」

「はい」



──吾妻さんの前だと、不思議と素直になれるのに。

そんなことを一度口にしようものなら、きっと変な混乱を生みかねない。

他意は決して無い。

誓えるけれど、私の心の中だけで留めておく。



「じゃあ、質問してもいい?」

「はい」

「みさおさんが思い描いている『素直』な姿って、どんなもの?」

「それは……」



──あれ?

考えてあったはずが、ぱっと浮かんでこない。

昨日までは、明確に文章になってたはずなのに。

思わず、考え込む。

黙り込んでしまった私を、吾妻さんは静かに見守っている。

──私がユウくんと、どんな風になりたいのか。

──このままの私じゃ嫌だ、そう思った理由は。

自分に問い質すと、自然と頭に浮かんだ。



「ストレートに思っていることを伝えられて……」

「うん」

「あと、女の子らしく甘えられる……それから……えっと……」



そこで私の声は止まってしまった。

自分でも、奇妙だった。

まるで、声が出たくない、と喉で必死にしがみついているような。

自分の頭にも疑問符が浮かぶ。

しかし、そんな私に吾妻さんは、至って冷静に声を掛けた。



「なるほど。うーん……みさおさん、俺の勘違いだったら、申し訳ないんだけど、もしかして今、誰かを連想してる?」

「え?」



「そんなことは」と言いかけて、ハッとする。

つい先程、自問自答して、出た答、映像に私は居なかった。

その映像は、いつかに覗き見たユウくんと女の子が会話をしていた風景だ。

そんなことにも、気付けないなんて。

──私、相当、参ってる。



「連想してる……」



今回の出来事、人生初の彼氏に、自分でも気付かぬうちに、案外深刻に悩んでいたのかも。

それを見ないフリをして、何とも思わないフリをして。

そんな風に考えているくせ、ユウくんに積極的に接していけるあの女の子に、嫉妬してる。

吾妻さんを見ると気遣ってか、控えめに笑顔を作ってくれる。



「私、浮気相手かもしれない女の子を、連想してました……」

「その女の子を……」

「はい」

「そっか」

「でも……」

「でも?」



心配そうに私を見る吾妻さんの視線や、仕草は、本当にこれが彼の本職なんだなぁと思わせる。

お店で合っていたプライベートの吾妻さんの面影はあるのに、違う人みたい。



「確かに、あの女の子の積極性に羨ましいと思いましたが、でも……。吾妻さん」

「うん?」
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