羊かぶり☆ベイベー

□Three sheep
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「はい。あのとき、吾妻さん『本当に彼氏さん、浮気だったのかなぁ』って」

「……ああ」



私が言うと、吾妻さんは苦々しく笑いながら、肯定した。

もう私は本当に、これっぽっちも気にしないのに。

むしろ吾妻さんの、そのほんの一瞬だけ気に障った一言で目を覚まされたことが事実で。

だから、感謝すらしているのに。

それをどうにか伝えたい。



「しばらく吾妻さんと顔を合わさない間に、また彼氏が例の浮気現場にいた女の子と、一緒に居るところを目撃しちゃいました」

「えっ、それは……」



分かりやすく、焦ってくれる吾妻さん。

言わんとしてることが、私でも何となく察せてしまう。

だから、私は首を横に振った。



「2人が会話をしていて……最終的には、口論になっていました」

「口論になってたんだ?」

「はい。彼女が私のことを悪く言ったら、彼氏は……意外にも怒って、庇ってくれたんです」



またあの光景を思い出しただけで、胸がじんわりと熱くなる。

膝の上で、密かに手を握る。

吾妻さんは、はっとした後、静かに頷いてくれた。



「恋人や友人みたいな親しい関係なら、怒るのは当然かもしれないんですけど。私には、それが本当に意外で。そこで気付かされたんです」

「そっか。みさおさんは、その彼氏さんの行動に気付かされたことがあったんだね」

「はい」

「それはどんなことだったか、教えてもらうことは出来る?」

「はい。彼は私とは、それほど本気で付き合ってる訳じゃないと思ってました。でも、それは私の中で勝手に決め付けてただけで、実際のところは真剣に想ってくれてたみたいです。それに気付けました」

「彼氏さんの行動が、彼がみさおさんを真剣に想ってくれていることを確信させてくれたんだ?」

「はい」

「なるほど。それは本当に良かったね」



そう言って、吾妻さんは微笑んでくれる。

ここで変に達成感を覚えたが、まだ終わってはいけない。

ここで終わったら、ただの惚気話になってしまう。

吾妻さんの微笑みにつられそうになった。

そうじゃない。



「あ、で! 相談って言うのは、ここからで!」

「あ! そうだよね! みさおさんが嬉しそうに話してくれるから、つい普通に聞いちゃってた。ごめん、ごめん」

「え、私、嬉しそうでした?」



私が問うと、吾妻さんはますます表情を柔らげて頷く。



「それはもう。大分前に家まで送っていった車の中で話してくれたときとは、表情も考え方も全く変わってる」

「あ……」
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