羊かぶり☆ベイベー
□Three sheep
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「うん。初めての顔合わせってことで改めて自己紹介や、カウンセリングの進め方など説明させてもらいます」
「はぁ」
「で、説明を聞いた上で、俺とのカウンセリングを受理してもらえるかどうかを、みさおさんに判断してもらいます」
「……ここまで来て、やっぱり止める、なんて言う方もいるんですか?」
「まぁ、たまにね」
「へぇ」
ここの会社でカウンセリングをしている曜日や時間帯、吾妻さんの主に扱う心理療法についてなど、一通りの説明を受ける。
吾妻さんの言葉遣いは、善くも悪くも噛み砕かれていて、至って単純な頭の私でも分かりやすかった。
吾妻さんの主とする心理療法とやらは、相談者自身の解決していく力を信じること、ただそれだけ。
同業者の中では、一番多い療法なんだと言う。
私には、にわかに信じ難かった。
それでも半分疑いつつも、残りの半分は期待で、胸が高鳴っていた。
「──説明は以上です。何か他に気になることはありますか?」
「はい」
「ん、何でしょう?」
「どうして、うちの会社に居るんですか?」
「ああ、それもちゃんと説明しておかないとね」
どこかぎこちない笑いを浮かべながら、吾妻さんは椅子に座り直す。
「実は俺、この会社から、社員さん達への相談業務委託の話をもらってね。普段は独立して、カウンセリングルームしてるんだけど」
「へぇ、吾妻さんって、自営業されてたんですね」
「何? そんな風に見えない?」
「はい」
「はは、正直過ぎ」
愉快そうに笑う吾妻さんにつられて、私の口角が上がりかける。
それを何とか抑えた。
「ほら、この前、みさおさんがお茶を出しに来てくれたとき」
「はい」
「あのとき、打ち合わせとか正式に契約をしてたんだけど。まさか、みさおさんとこんな形で繋がるとは、思ってもみなかった」
「私もです」
「それに……」
吾妻さんは言葉を止めて、そっぽを向く。
「みさおさんの方から頼ってきてくれるなんて、考えもしなかった」
改めて、目が合う。
その吾妻さんの表情は、何故かしら気まずそうだった。
「……どうされたんですか?」
「いや、俺、みさおさんに不快な思いさせちゃったかなって、ずっと引っ掛かってたからさ」
私たちが最後に、あのお店で会った日。
その日の別れ際のやり取り。
吾妻さんがそこまで、深く考えてくれているとは、正直なところ意外だった。
私が隠しているつもりだった苛立ちも、見抜かれてしまうのだから。
「そんな……私の方こそ、失礼な態度をとって、すみませんでした」
私が申し訳なく思い、ぐっと眉根を下げた。
すると、吾妻さんも困り顔を見せる。
「やっぱり優しいなぁ、みさおさんは」
「え、そんなこと……」
唐突に褒められると、恥ずかしくなった。
吾妻さんの瞳は、よく見ると不思議な雰囲気を醸している。
吾妻さんに掛かれば、隠したところで、きっと内面も何もかもを覚られてしまう気さえする。
それって、私にとっては恐ろしいこと。
だって、どんどん自分を知られていくということには、違いないのだから。
そんなことを考えながらも、相談を聞いてもらいたい、なんて矛盾している。