贈り物
□2015クリスマス企画
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玄関の扉に手をかけて、こんなにも重かったかと風の圧を感じつつ外の空気に踏み出す。
喉を乾かしながら駆けていく冷気に、温かいココアでも飲みたくなる十二月の下旬。
世間ではクリスマスイブとされる平日。
オペラは今宵も門を開いて、クリスマスを一緒に過ごしたいとする客の来訪を歓迎する。
襟元に人差し指を差し込んで皺を正していると、後ろからトンと背中をつつかれた。
振り向くと、まるで今日のためにあつらえたかのような純白のスーツで身を包んだ篠田が薄ら笑いを浮かべて立っていた。
無論、それは彼の仕事着なのだが。
「なに? ご機嫌だね。春哉」
名前を呼ばれたチーフは唇の端に笑みを残して、類沢の隣のロッカーを開いて鏡を確認する。
「そうでもないが」
今にも鼻歌でも奏でそうなくせによく言うよ。
「サンタ帽でも被れば?」
「うるせえよ」
垂れた前髪を摘まんで直しながら、篠田は自分の鞄に手を伸ばし、中から小さな包みを取り出す。
何かと眺めていたら、それを差し出されたので些か怯んでしまった。
「……やらかした覚えはないんだけど」
「退職祝い以外に俺がお前に何かをあげる理由はないのか?」
「給料かな」
「早く受け取れ」
黒いシルクの包みは、持っただけで中の形状が大体わかる。
軽く転がし、スーツのポケットにしまう。
「ありがとう」
「お返しは最新式の掃除ロボットでいいぞ」
「いくらパートナーがいないからってそれは不健全だと」
「よく言うなあ、お前」
少し浮気立つ世間に影響されてか二人の雑談も普段よりテンションが高いものとなっているのを自覚する。
そう。
イブなのだ。
「何か用意してるのか」
「……一応」
「花束とワインと香水さえあればとか思ってないか」
「客相手じゃないんだから」
「しかしな……瑞希ももう二十六って考えると、結構難しいものがあるんじゃないか」
あの日、約束をして別れてから六年。
帰ってきたのは今年の三月。
空白の五年と半年。
復活を盛り上げた八人集も顔立ちが変わっていた。
シエラのトップは紅乃木智が維持していたようで、羽生千夏は一昨年からオペラに移籍して紫野恵介と良い勝負を続けているという。