贈り物
□2015クリスマス企画
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瑞希はあの家でずっと暮らしていた。
大学に戻ることもできたはずだが、オペラで働き続けていたと知って感心させられたのをよく覚えている。
―親には話せないですよね。妹にも何してんのって凄い聞かれますけど、ツテで企業に中途採用させてもらったから大学中退したって説明して、実家には一定額の仕送りもしてるんでなんとか許してもらってる感じです。やっと学費くらいは返せたかなっていうか―
そうぽつぽつと話していたのが思い出される六か月前。
普通に大学に進んでいたら、ホストに転身するなど思いもしないのだろう。
シエラに飛び込んでくる者たちは、失うものがないと腹を括ったものが多かったから、なるほどそういう年代かと改めて感じた。
今年三十五歳を迎えた。
アラフォー突入だ。
開店前の店内を篠田と歩いて回る。
恒例の時間だ。
瑞希は新人の教習に忙しい。
まあ、篠田が面白がってそこに付けたのはわかっているのだが。
少し色合いの変わったホールを眺めて、螺旋階段を上りVIPルームへと足を向かわせる。
上客をエスコートするとはいえ、階段を上らせるなんて此処くらいじゃないだろうか。
ドレスを気遣って段差の低い設計にはなっているが。
「春哉って四十一なんだね」
「今更なんだ」
「いや、早いなあって。二十代のころに出会ったのにね」
くすくすと笑うと、篠田は足早に前に行ってしまう。
「結婚しないの」
「お前まで言うのか? 我円や吟さんのみならずお前までそれを。言うか? 俺に」
その早口が面白かったので、またも頬が緩んでしまう。
「僕がいない間にとっくにしてるとばかり思っていたから」
「よく言う。お前こそ籍を入れてるんじゃないかと」
「……よく言う」
先ほどまでの和らいだ空気が張り詰める。
戻ってきたとき、篠田とは何時間話したかわからない。
それまでのこと。
これからのこと。
瑞希には話せないこと。
瑞希にしか話せないこと。
店のこと。
将来のこと。
篠田の引退のこと。
いろいろ、話した。
「あれから世帯を持ったのは伴くらいか」
「それでも続けてるって凄いことだよね。瑞希と同い年なのに」
「駄目だな。うちは。オーナーの俺がこれだから若手が結婚願望を持たない」
「持たせたいの?」
「……そうでもないか」
未だ五人のホストしか使用していない一室。