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□私の元から離れるのなら、いっその事奪ってしまいましょうか
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お嬢様が小さい頃から恋い焦がれていた。

私が若い頃は、カトレアお嬢様を私のお嫁さんにしたいと考えてさえいた。



それくらい愛しくて愛しくて仕方がなかった。



だけれどそれはただ私の願望でしかなく、それにそんなことは絶対に無理だと理解してはいた。

無理に決まっている。私は執事、カトレア様はお嬢様なのだから。
身分も違う、気持ちさえ伝えることは許されない。



私の心は何時もボロボロだったことは、一生お嬢様には分からない。いや、知られたくないことだ。






「私、婚約するの」





「さようでございますか」




カップに紅茶を注ぎながらにっこりと微笑む。



――危ない。正直、かなり動揺して思わず紅茶を溢してしまうところだった。


だけど私の気持ちを気付かれる訳にはいかず、なんとか堪えた。


―――そうか。とうとう婚約されるのですね、お嬢様。

このコクランめの叶うことはない恋心も、願うことさえ許されなくなるのですね。


なんて酷なのでしょう。







「おめでとうございます」





冷静を装って言ったその言葉には、そんな感情含まれては居なかった。
ああ、行かないでください。やめてください、嫌です。私はこの気持ちを、お嬢様にお伝えしたいのです。――こんな醜い気持ちが含まれているなんて、お嬢様は知らなくていいのです。






「今度、相手の方に会うわ。貴方も一緒にとのことよ。お父様が言っていたわ」


「いえ、私は……」





何故私も一緒なんだ、と心が打ち砕かれたかの如く激痛が走る。痛い。




私はそんな心に抱えた感情を押し殺してお嬢様を見つめた。





「……どうか、お幸せになってください。お嬢様」




「………ええ」













―――あの時の、お嬢様の顔からは何一つとして感情は読み取れなかった。―いや、読み取ることなどしたくはなかった。

私はお嬢様を信頼していてお嬢様に私のすべてを尽くしたいとそう考えていた。お嬢様の幸せの為なら何でもすると。

だから、自分のことなどどうでもいいのだ。






あれから、日が経ってとうとう婚約者とお嬢様がお会いする日がやってきた。

今でも心苦しいし、辛くないと言ってしまえば嘘になる。



だけど今の私にそんなことを言う権限はない。




私のことはいいのですお嬢様。


貴方が、……貴方様が幸せになってくれさえすれば。
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