in the silver.
□ミステリートレイン後編
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そして最大の特徴は、死体が残らないことだ。
証拠隠滅もお手の物。
ベルモットは、シェリー=小学生灰原哀だと知っている。
恐らく、恐怖を煽ることでシェリーが自ら大人の姿になるよう操作したはずだ。
だが万が一彼女が大人にならなかった場合、銃殺だと死体は小学生の体が残ってしまう。
アポトキシンの効果を組織に知られたくないベルモットにとって、これは不都合だ。
その点、爆殺なら……シェリーが灰原哀のままだろうが、大人だろうが死体は木っ端微塵に吹っ飛んでしまう。
確実に殺すことが出来るのだ。
ベルモットは本気だ。本気で、シェリーをこの世から消しにかかっている。
黙り込んだ私を不安げに見やるウォッカに、手に持っていた雑誌を投げつけ、無言で携帯を取り出す。
かける先は、もちろん、あの男。
アドレス帳の『あ』のページから、リスト状にならんだ名前の『赤ワカメ』を選択する。
これは決して悪口ではなく、本名が私の携帯に登録されているのを見られた場合の策だと主張したい。
面白がってなどいないのだ。ええ、そりゃもう。
因みに、本人は本名で登録されていないことは予測済みだろうが、なんと登録されているのかは知らないはずだ。
携帯を操作しつつ、話し声の聞こえないくらい十分な距離をウォッカから取って、携帯を耳にあてる。
やけに長く感じられるコール音に苛々しながら、あとワンコールで出なかったら、今度家行った時にピンポンダッシュしてやる!と私は心に決めた。
「はい、何の用です?今忙しいのですがね…」
相手が電話にでたのはそれからツーコール後だった。
ピンポンダッシュ決定である。
何を参考にしているか知らないが、携帯から流れてきた声は、本来の地を這うような特徴的な低い声ではなく成人男性にしてはやや高めの軽やかささえ含んだテノールだ。
「遅い‼︎下手な演技してる場合じゃねぇぞ。お前今列車内にいるな?」
「…………いきなりご挨拶だな。誰かさんの所属組織のおかげで、こんなにも忙しい事になってるんだ。本物のミステリーを山積した列車は、順調に進んでいるが?何かあったのか?」
溜息をついて元に戻った声と口調は、赤ワカメ……赤井秀一だ。