in the silver.
□ミステリートレイン解決編
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ボスンッ
という音を立てて、靴も脱がないままホテルのベッドに倒れ込む。
銀色の長髪が、シーツの上に大きく広がった。
体が、兎に角休息を欲していたのだ。
いや、私駅に居ただけで全く動いてないんだけどね。
疲れたのは、心の方だ。
もぞもぞとうつ伏せから仰向けに体勢を変えて、ぼんやりと繊細な模様が描かれた天井を見つめる。
流石高級ホテル……天井まで、装飾が行き届いてるとは。抜かりない。
私が今いるこのホテルは、名古屋駅からは中々の距離があるが、名古屋のホテルだ。近くで爆破騒ぎを起こすつもりだったので、駅に近いホテルは却下した。
日帰りで東京に帰るとか、そんなハードスケジュールは嫌だったんだもん。まぁ、予約したのは当たり前のようにウォッカだけど。
普通のホテルでいいって言ったのにな…。女子大生時代には考えられない贅沢である。
手のひらで覆うようにして目を閉じると、浮かんでくるのは淡く微笑む、ある女性の姿だ。
真っ黒な世界で、彼女は酷く不釣り合いな存在だった。
血が流れようと、人が死のうと、欠片も興味を示さない者達に埋もれながら、彼女はただただ優しく、濁ることのない清流のようだった。
赤井の、いや、ライの恋人であり、シェリーの姉ーー宮野明美さんだ。
「…………。」
♪ワカ〜メ、ワカ〜メ、ミ〜ネラル抜っ群!♪
私の心情とは裏腹に、陽気なメロディーが着信を知らせてくる。
ちなみにこの着メロは『凄いね!ワカメパワー!』である。朝の大人気幼児向け番組で、歌のお姉さんとお兄さんが元気一杯に歌ってくれる。
私がこの歌と出会ったのは、スーパーの鮮魚コーナーだ。昔ながらのラジカセから流れる『凄いね!ワカメパワー!』に多大な感銘を受けて、直ぐさまとある人物専用着メロに設定した。
まさに運命的な出会い。
『凄いね!ワカメパワー』は歌の最後
♪海藻パワーだ 凄いね、凄いね ワ・カ・メ〜!♪
までを歌いきった。
電話か……。
着たままだったコートから携帯を取り出して眺める。
ディスプレーは、点滅を繰り返しながら当然のように
「赤ワカメ」
の文字を表示していた。
「寝てたのか?電話を取るまでに随分時間がかかったな」
「…………赤井…」