短編&拍手log
□下位応援小説
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「どうして私はついて行っちゃダメなの?ジン…?」
「諦めな!ベルモット!今回あんたの出番は無いよ!」
「…………。」
今、私を間に挟んで繰り広げられているのは、ベルモットとキャンティによる『女の戦い』である……。
*・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*
始まりは、やはりあのお方からの仕事の指令だ。
組織の銃器取り引きの仲介役を暗殺せよ、との事だった。
あのお方は、組織の存在を悟らせないことに心血を注ぐので、なんの取り引きだろうと大概気が遠くなるほどの仲介が入る。
組織に渡る最後の仲介役には、単独行動をする者であることがほとんどだ。
何故って?
もちろん、抹殺がお手軽に済むからだ。
口封じだって、一人だけなら簡単なのだ。
…………本当に、大人って汚いわー。
まぁ、命令されれば消しに行くのは私なんだけどね…。
この仲介役の男ーー新美達矢は裏ではちょっと有名なチンピラだ。
前世の私は一匹狼な不良なんて、中二病の世界の人だと思っていたよ。
まぁ、新美がリアルに邪気眼を使えたら、私が困るからやめて欲しいけどね!
邪気眼はベレッタで対抗可能なの?
撃つ前に中身の女子大生を見破られそうなのが怖いよね!
ファンタジーは体が縮む薬だけで充分なのだ。
Yesリアリティー!Noファンタジー!
でお送りしたいかな!
さて、次に私が取る行動は人手確保な訳だけど。
今回のターゲットは仲介役の一人だけ。大した人数は必要ない。
私とウォッカと……ウォッカいるか?
……………いらんな。
うん、いいよ。アイツたまには休むべきだよ。ずっと一緒にいると、その間中演技しなきゃいけないから疲れるんだもん、私が。
キャンティかコルンに頼もう。
狙撃手はどのみち使うつもりだったしね。
そう結論を出した私は足取りも軽やかに、射撃場へと向かった。
*・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*
狙撃訓練に、組織はデジタル銃を採用している。
狙撃対象は、某国の大統領に見立てた男である。
凝ったシュチエーションや、デジタル銃の着弾計算の正確さを除けば、遊園地の銃アトラクションみたいなものだ。
まぁ、人を狙撃対象とする時点で、R指定必須の怪しげな遊園地になってしまうけど。
650ヤードをクリアーし、勢いよく振り返った二つの瞳が私を捉え、輝き出す。
「ジン!どうしたんだい、ここに来てくれるなんて!久しぶりにジンの射撃をみせてくれるっての?」
組織が誇る女性スナイパーであり、コードネーム持ちの幹部、キャンティちゃんである。
今日は、いつも行動をともにしているもう一人の狙撃手、コルンはいないようだ。
目をキラキラさせて、近寄って来る彼女は本当に可愛い。
心なしか、目元の揚羽も生き生きとしているように見えるから不思議だ。
ベルモット様にもこの可愛らしさを少しでいいから分けて、私の苦労をぜひとも減らして欲しいものだ。
「仕事だ、キャンティ」
しかし私は、この可愛い女の子を前にして無表情で告げるのだ。
私の演技力はレベル96だ!
キャンティちゃんには破れないはず。
どこぞの赤いワカメとは違って基本いい子だからね、彼女。
「仕事、いいねぇ!そろそろ誰かの頭を撃ち抜かないと、相棒が錆びついちまいそうだったよ。それなら、コルンを呼ばないとね!」
……基本は、いい子だからね。基本は。
「いや、いい。今回のターゲットは一人だ。たいした仕事じゃねぇよ…。ウォッカも置いていくつもりだしな…」
「え!じゃ、じゃあ……あいつは…?」
「あいつ?」
「あの女だよ……ベルモットさ」
「あぁ、ベルモット……」
『も、置いていく』
と続けようとした私の言葉は、カツンと響いたハイヒールの音と共に発せられた、
「勿論、連れて行くわよね?」
という艶のある声音によって遮られたのだった。
「べ、ベルモット!何であんたがここにいるのさ!」
プラチナブロンドの美しい髪を靡かせて、歩みを進めるベルモットにキャンティが威嚇するように言葉で噛み付く。
仲悪いんだよねぇ……この二人。
まぁ、理由が理由だからどうしようもないんだけど…。
声を荒げるキャンティを完全に無視して、ベルモット様は真っ直ぐ私の方へとやってきた。
「ねぇ、行ってもいいでしょう?私絶対に役に立つわよ。狙撃手なんかより、ずっとね…」
「はぁぁ⁉︎」
そして、いちいちキャンティちゃんに喧嘩を売るのである。
やめて⁉︎本当に!
二人が本格的に言い合いを始めないように、ため息混じりに割り込む。
「いらん。休んでろ。容易な仕事にお前を使うと高くつく。それに今回はお前がくる必要がない」
「どうして?」
「ターゲットの新美は、ある組織と敵対している。そいつらの仕業に見せかけるには、キャンティ一人で充分だ。その組織は、少人数の狙撃を主な殺しの手段として使っている。……理解出来たか?ベルモット…」
ベルモットをじっと見つめると、幾分かの間を空けてから肩を竦めて渋々、本当に渋々頷いた。
「わかったわ……大人しく待ってる。…Good ruck!キャンティ?
貴女が失敗しない事を祈ってるわ」
「な!余計なお世話だよ!アタイが獲物を外すと思ってるわけ?」
「…行くぞ、キャンティ」
放っておくと何時まででも言い争いーーもといベルモットが一方的にキャンティちゃんを揶揄うだけーーを続けそうな二人だった。
いつもコルンはこの二人をどうやって捌いているのか……。
コルンもベルモットのことはキャンティと同じ理由で嫌っているが、彼は究極的な無口である。
単語しか喋らない彼が、一体どうやって二人の争いについて行っているのかは、かなりの謎だ。
廊下へ向かった私を、キャンティがパタパタと追いかけてくる足音を聞きながら、私はぼんやりそんな事を考えて歩調を緩めた。
今の私の身長はバレー部やバスケ部に引っ張りだこの190pである。まぁ、現役学生時代は当然のように全断りしてたけども……。
かなり長身の女性でも、普通に歩くと歩幅が違いすぎて全力ダッシュをさせかねない。
キャンティちゃんは小柄な方なので、全力ダッシュ予備軍だろう。
あ、ベルモット様の場合は歩調を合わせるのを忘れてると、途中で着いてきてくれなくなる。
あれ、切ないな…。
ウォッカは無理に早足にしてでも、着いて来てくれるのにな…。
流石ベルモット様、容赦ない!
「待ってよ、ジン!それにアタイにもターゲットのこと、教えてよ!」
背後で聞こえた声に、私はゆっくりと振り返った。
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(side キャンティ)
銀色の髪が、歩く度に廊下の照明に照らされてキラキラと光る。
一瞬見惚れそうになって止まった足を、置いてかれまいと慌てて動かす。
「待ってよ、ジン!それにアタイにもターゲットのこと、教えてよ!」
彼は、真っ黒なロングコートの裾をゆるりと翻して、振り返る。
止まってくれたおかげで、アタイは漸く追いつくことができた。
「……新美がある組織と敵対し、そいつらは、少人数の狙撃を主な殺しの手段として使っている、ってヤツか……?」
「そう、それだよ。そいつらの詳しい手口は?狙撃箇所は頭でいいのかい?それとも心臓?」
「嘘だ」
「は?」
「だから、嘘だ」
どうしよう、ジンの言っていることが分からない……。
「ど…どういうこと?」
「新美に敵対しているのは、小規模の暴力団だ。消すのに使うのはせいぜいが拳銃か、刃物。仮にスナイパーがいたとしても、腕は知れている…。狙撃なんて、あり得ねぇよ」
「じゃあ…何であんなこと言ったのさ?」
「あのままだと、ベルモットが着いてくると聞かないからな…。うだうだ言い争っている時間の方が無駄だぜ……。それに、お前の腕なら確実に新美を殺れる。そうだな?」
フッと微かに笑みを浮かべて、翡翠色の瞳が向けられる。
………………………。
……………そんなの、反則だ…!
「…………あ、当たり前!
アタイが、獲物を逃すワケないじゃないか…!」
短い髪を引っ張って、必死に赤くなった顔を俯けて隠す。
きっとアタイ今、すごく間抜けな顔してる!
「キャンティ」
低い声で呼ばれたコードネームに、はっと顔をあげる。
気がつくと、彼はすでに歩き出して、少し先にいた。
「あ。今いくよ、ジン!」
今日だけは、プラチナブロンドのいけ好かないあの女の邪魔が入らないことを目一杯に感謝して、アタイはジンの跡を追った。
end!
*・゜゚・*:.。..。.:*・*・゜゚・*:.。..。.:*・'
キャンティとコルンがベルモットを嫌いなわけ
→満月の夜の二元ミステリー参照。カルバドスの可哀想なあのお話です。
仲介役が一人云々
→捏造です!お間違いなく。
新美達也
→こちらも当然の如く、捏造!(笑)
さぁ、あなたもキャンティちゃんに票を入れたくなってきませんか?
なってきましたよね?
ねっ?(笑)